第13話 衝撃!マンティスの正体!!
「私の家にも、お父様しかいないの。お母様は弟を連れて、私が小学生の時に出て行ってしまったわ。私は弟が大好きだったの。でも、お父様は、私がお母様や弟に会う事をお許しにならないの」
だから西園寺さんは、家に連れて帰った子犬が、いきなり人間の男の子の姿になった時にビックリしたけど、会えない弟の面影を感じて、かくまう事にしたのだという。
その男の子……。ケルベロスのベロちゃんは、倒れる前の記憶を失っており、西園寺さんに、実の姉の様に甘えた。
それからは、人がいる時にはベロちゃんは子犬の姿で、部屋で二人きりの時は男の子の姿で、ずっと一緒に暮らしてきたのだという
「私が学校にいる間、ベロちゃんは一人でいるのが寂しくて、つい学校に来ちゃうのよ。さっきも校庭にいるのが見えたから、プール裏で、帰る様に言い聞かせていたの」
「そうなんだあ。ベロ君は、ほんとに、まだ子供なんだね。西園寺さんを、大好きなお姉ちゃんだと思っているんだ」
エルくんの治癒魔法が効いて来たのか、肩の痛みが楽になって来たのもあり、私は笑った。
西園寺さんもベロくんの話だと、嬉しそうに笑う。
まさか彼女と、こんなに友人みたいに、笑い合う時が来るとは思わなかった。
「あと山野辺さん。もう一つ、謝らなきゃならない事があるわ。今まで、外勢とバカにしてきてごめんなさい」
「あはは、それは私以外、中学入試で入った子、全員にだけど」
「本当にそうね。皆に謝るわ」
しおらしくそう言うと、西園寺さんは瞳をふせて言った。
「私、お父様に、いい大学に行って、西園寺グループの跡を継ぐ様に言われていて……。息が詰まる様で、中学から入ってきた人たちに、八つ当たりしてしまったの。自由そうで、うらやましくて。本当にごめんなさい」
「うーん、西園寺さんは、マジメすぎるんじゃないかな」
「マジメ? 私が?」
目を丸くする西園寺さんに、私は言った。
「跡を継げ、っていうのは、お父さんが勝手に言ってるんでしょ? 嫌なら、どこかで逃げればいいと思うよ。あ、お金だけは、お父さんからもらって」
私がそう言うと、西園寺さんは、おかしそうに吹き出した。
「やだ、山野辺さんて、面白い事を言うのね」
「そうかなあ。今はまだ、一人で生きていけない中学生だから、ハイハイ大人の言う事を聞くけど、一人で生きて行ける様になったら、逃げてもいいと思うよ」
「ええ、そう考えるだけで、気分が楽になるわ。ありがとう」
微笑む西園寺さんに、私は大事な事を聞いた。
「ところで西園寺さん。昨日、私の上ばきを、今日、体操着を盗んだのは、あなたじゃないわよね?」
「もちろんよ。そんな事してないわ」
「そうよねぇ。だって犯人は」
私は、さっきから黙っている、もう一人の女の子に向かって言った。
「あなたよね、坂切さん」
私の一言に、西園寺さんも、坂切さんも、ギョッとした様だ。
「な、何よ! ひどいわ、私、山野辺さんに、あんなに親切にしてあげたのに」
「坂切さんは親切よ。だけど今は、坂切さんの体を乗っ取った、マンティスが話してるんだよね。だから上ばきも体操着も、盗んだのはマンティス」
坂切さんは、必死に言い訳をする。
「私もあなた達と、同じ体育の授業に出ていたのよ。その間に、体操着を掲示板に貼り付けるなんて事は、出来ないわ」
「その時は、体のコントロールを坂切さんに返して、体育の授業を受けさせて、マンティスは彼女の体から離れたのよね」
私は、一気にしゃべり続けた。
「授業中だから掲示板の前に人はいないし、マンティスは他の人間にも化けられる。そして体育の授業が終わった坂切さんに、再び取りいて、体のコントロールを奪い、私を使って内勢と外勢の対立をあおる様に仕向けた。大好物である、人間のネガティブ感情を集めるために」
坂切さんは、困った様な顔で言った。
「何を言っているの。ちょっと、とっぴな話でわからないわ」
「私、思い出したの。『顔取り女』の噂を、クラスに広めたのは坂切さんだった。最初は『顔取り女』の噂で皆が怖がる事による、ネガティブ感情を集めようとしていたんでしょう。校舎の四階に現れた、顔がずり落ちる女も、あなたが演じたのね。でも『顔取り女』を演じて通学路で私をおそったせいで、イリヤくんに見つかって、この手は使いにくくなった。そこで西園寺さんを利用して、内勢と外勢の対立をあおり、ネガティブ感情を集める方法に切り替えたんだ」
まだ、とぼけようとする坂切さん……いや、マンティスに、私は決定的な証拠を突きつけた。
「私が中間試験で百九十六位だった事を知っているのは、この学校で唯一、私と話してくれる坂切さんだけ。私、一度だけ坂切さんに、成績の事をグチったの。あなたは坂切さんの記憶を盗んで、体操着にそう書いたのよ」
「そ、そんな事……。他の人にだって、聞こえたのかも知れないじゃない」
「証拠はもう一つあるわ」
私は「マンドラゴラのキーホルダー」を、坂切さんの前に突き付けた。
「ここから出る音は、フェアリー・モンスターを苦しめる。さっき私がこれを鳴らした時。苦しんでいたのは、ケルベロスとあなただけだった。私や西園寺さんは平気だったのに」
坂切さんは……。いや、坂切さんの体を乗っ取っているマンティスは、黙り込んでしまった。
私が西園寺さんをかばいながら、ジリジリと後ずさると、坂切さんはいきなり、しわがれた男の声で笑い出した。
『次はお前たちに取りつこうと思っていたが……。こうなったら、口封じに殺してやる』
そう言う坂切さんの身体がバサッと広がり、カマキリの化け物マンティスの姿になった。私はこの姿を見るのは二度目だが、初めて見た西園寺さんが悲鳴を上げる。
『いくら名推理をしても、犯人に勝てなければおしまいだな』
そう言うマンティスに向かって、私は言う。
「ええ、だから私じゃなくて、この人たちにお願いするわ」
その瞬間、私と西園寺さんの後ろから、ライムさんの触手が飛んできて、マンティスの顔に絡みついた。
「前は、殺されかけたからね。今度は視界をふさいでやったわ」
廊下に出たふりをして、ずっと体を平べったくして壁に化けていたライムさんが、両腕から伸ばした触手で、マンティスの顔面を、おおいながら言った。
子犬に戻ったケルベロスを抱いたイリヤくんと、エルくんも教室に入ってくる。
「ワンコは、とっくに捕まえたんやがな。せっかくやから、響さんの名推理を聞いとった」
「もう! みんなそこにいるのはわかってだけど、ドキドキしたんだからね!」
さっき、エルくんが貼ってくれた治癒のカードには、もう一つの術式が書いてあった。
エルくんからのメッセージが、直接、私の頭に届く術式だ。
坂切さんがマンティスではないかとイリヤくんが疑っているので、ケルベロスをつかまえる間に、私に探って欲しい。
安全のため、ライムさんを残していく、というメッセージだった。
イリヤくんは抱いているケルベロスを、西園寺さんに差し出して言った。
「眠っているだけだ。抱いて逃げろ」
廊下に逃げ出す西園寺さんを背に、パン! と両手の平を合わせてから広げ、イリヤくんは「王家の剣」を出現させた。
「マンティス、お前、地獄に家族はいるか?」
ライムさんの触手に顔を覆われたまま、マンティスは言った。
『イリヤ王子、少し遅かったな、こいつの魂をいただいて、他の獲物を探してやる!』
そう言うと、マンティスの姿は、制服姿の坂切さんに戻って床に倒れる。
「おっと」
意識がない坂切さんが、床に体を打ち付けない様に、ライムさんが触手で抱き止める。
同時にイリヤくんとエルくんが駆け寄った。
「どうしたの? マンティスは逃げちゃったの?」
問いかける私に、エルくんが苦い顔で答える。
「この子の心の奥底に入ったんや! ネガティブ感情が満ちて、食べごろになった魂を、中から食い尽くす気や!」
「えっ、そんな事したら、坂切さんはどうなるの」
「生きる屍になる。時間がない。奴を追って、俺たちも、この子の中に入る」
イリヤくんの言葉に、エルくんが驚いた。
「俺たち? 取りついていない人間の中に入る魔法、『インダーソウル』は、王家の血を引く若旦那しか使えへん」
「いや、もう一人」
イリヤくんは、じっと私を見つめた。
「俺と生命を分け合った響がいる。俺と一緒なら、彼女も入れるはずだ」
私はドキン、とした。イリヤくんは、意識がない坂切さんを見ながら言う。
「これからこの子の中に入り、俺はマンティスと戦う。響は、マンティスのエネルギーになるマイナス感情を断つため、この子を悲しみや苦しみから救ってあげて欲しい」
えっ、私?
無理だよ、私、魔法とか使えないし。
普通の女の子どころか、落ちこぼれだし。
言いかけた言葉を、私は飲み込んだ。
時間がない。坂切さんを、生きる屍にする訳にはいかない。
うなずいた私の右手を握ると、イリヤくんは坂切さんの左手を握り、私にも、彼女の右手を握る様にうながした。
「若旦那、頼みまっせ!」
「響ちゃん、気をつけてね」
エルくんとライムさんの言葉が終わると同時に、イリヤくんは叫んだ。
「インダーソウル!」
その瞬間、私の意識は、虚空の暗黒に落ちて行った。
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