第30話 「不安」と共に生きるということ

不安は、いつもそばにいる。静かな時間の中でも、忙しい日常の中でも、ふとした瞬間に顔を出して、心をざわつかせる。それは、まるで影のように私を追いかけ、どこに行っても完全に離れることはない。そんな不安をどうやって受け入れ、共に生きていくかを考えることが、私にとっての長い課題だった。


不安は厄介だ。理由がはっきりしているときもあれば、何に対する不安なのか分からないまま心を締め付けることもある。それが原因で眠れない夜を過ごしたり、頭の中で同じ考えを何度も繰り返してしまうことがある。周りの人は「考えすぎないで」と言ってくれるけれど、それができればどんなに楽だろうと思う。


でも、あるとき気づいた。不安を無理に消そうとするのではなく、それを受け入れることで、心が少し軽くなることがあるということを。不安を敵ではなく、ただそこにある存在として扱うようにすると、不安に対する抵抗感が少しずつ薄れていくのだ。「今、自分は不安を感じているんだな」と冷静に受け止めることで、不安が自分を支配する力が弱まる。


また、不安を受け入れることで、自分の中の「恐れ」や「期待」にも気づけるようになった。不安は、自分が大切にしているものや、守りたいものがあるからこそ生まれる感情だ。たとえば、未来に対する不安は、自分が何かを成し遂げたいという願望の裏返しであり、人間関係の不安は、他人とのつながりを失いたくないという気持ちの表れだ。そのことに気づくと、不安がただの厄介者ではなく、自分の内面を知るための手がかりにもなると感じられるようになった。


不安と共に生きるということは、不安を完全に消すことではなく、それと共存する方法を見つけることだと思う。不安を否定せず、「あってもいい」と受け入れることで、不安に押しつぶされることが少なくなる。むしろ、不安を自分の力に変える方法を探ることが、自分らしい生き方につながるのではないかと感じている。


これからも、不安はきっと消えないだろう。でも、それでいいと思う。不安があるからこそ、自分が何を大切にしているのか、どんな未来を望んでいるのかに気づける。そして、その不安と上手に付き合いながら、一歩ずつ自分の道を歩んでいきたい。不安と共に生きることは、自分を深く知るための旅でもあるのだ。

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