第6話 カラオケという解放
カラオケボックスのドアを閉めた瞬間、ほっとする。狭い部屋の中に一人きりでいると、周りの喧騒も、人の視線も、一切気にしなくていい。ここは、私にとって唯一無二の解放の場所だ。マイクを握り、選曲リモコンを手にした瞬間、心の中に溜まっていた重たいものが少しずつほどけていくのが分かる。
私は、学生時代からカラオケが好きだった。最初はうまく歌えなかったし、恥ずかしくてなかなか声を出せなかったけれど、一人で何度も練習するうちに、だんだんと自信がついていった。社会人になって、仕事や人間関係に悩む日々が続く中で、カラオケは私にとって心の支えになっていた。たとえ誰にも言えない苦しみがあっても、カラオケボックスの中でだけは、思い切り声を出せた。
歌詞に共感し、メロディに身を委ねると、いつの間にか心が軽くなる。言葉にできない感情を歌に乗せて放つことで、日々の不安や孤独が少しだけ和らぐのだ。歌っている間は、自分が特別に感じるわけでもなく、ただその瞬間を楽しむことに集中できる。そこに、誰にも邪魔されない自由がある。
周りがどう思おうと、私は私の好きな歌を歌う。バラードからロックまで、気分によって歌う曲は違うけれど、その時に自分が感じていることを思い切りぶつけるように歌う。いつも通りに歌えた時の達成感や、ちょっとだけうまく歌えた時の喜びが、また次に進む力になる。
外の世界では、自分を隠して生きることが多い。無理に明るく振る舞ったり、自分の感情を抑えたり、そうやって周りに合わせるのが精一杯だ。でも、カラオケの中では、そんな必要はない。誰も私を評価しないし、私はただ自分のために歌う。自分の声が響き、心が揺れる瞬間が、どれだけ救いになっているか。
歌い終わると、部屋の中には静寂が訪れる。その静けさの中で、少しだけ前向きになった自分がいるのを感じることがある。カラオケという場所が、私にとっての避難所であり、心のリセットボタンになっているのだ。だからこそ、これからもずっと、私はカラオケを続けていくだろう。自分を解放し、また前に進むために。
俺の世界は、何があるの? 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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