第5話 人混みの中の孤独

街に出ると、人が溢れている。ショッピングモールの賑わい、駅前の人波、カフェのざわめき。そのすべてが、まるで別の世界の出来事のように感じられる。私もその中に混じっているはずなのに、どこか遠くから眺めているような感覚になる。人混みの中にいても、自分だけがぽっかりと空いた穴の中にいるような、そんな孤独が心に広がっていく。


周囲の人たちは、楽しそうに笑いながら話をしている。友人や家族、恋人同士の姿を見ると、自分がどこにも属していないように感じることがある。何かを共有している彼らの姿が、眩しくて遠い。自分もそんな風に笑えたらと思う反面、無理に笑顔を作る自分の姿が頭に浮かんで、さらに孤独を感じることがある。


人混みの中で孤独を感じるのは、実は不思議なことではないのかもしれない。周りが楽しそうにしているほど、自分の心の空白が強く浮き彫りにされる。だからこそ、ただ歩いているだけで、何も言わずに静かに過ごしていると、どこか安心するのだ。誰の目も気にしなくていいし、無理に自分を合わせる必要もない。周りに溶け込んでいるようで、実は一人きりでいることが、逆に居心地が良い。


でも、時々ふと立ち止まって、心の中で問う。「このままでいいのか?」と。何かを変えたくても、どうすればいいのか分からないまま、人混みの中をただ歩き続ける。周りの音や会話の断片が、まるで波のように押し寄せてきて、自分がどこにいるのか分からなくなる瞬間がある。


そんなとき、私は耳にイヤホンを差し込む。お気に入りの曲を流して、自分だけの世界にこもる。音楽が、周りの喧騒をかき消し、心の中の孤独を少しだけ和らげてくれる。人混みの中で、ただひとりの時間を過ごすために音楽に頼ることが多い。周囲の人たちが気づかないところで、自分だけの小さな世界を作り上げているのだ。


人混みの中の孤独。それは、誰にも見せない自分の居場所かもしれない。周りからは見えないけれど、自分の中には確かに存在している。そこに安らぎを感じる一方で、いつかその世界から抜け出せる日が来るのだろうかと、少しだけ希望を抱く。今日もまた、音楽に包まれながら、その問いの答えを探し続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る