第4話 親からの手紙

両親から手紙をもらったのは、久しぶりだった。数年前、何かの記念日でもないのに、ふいに手渡された封筒。その中には、両親それぞれが書いた手書きのメッセージが入っていた。


「体を大事にしてね」という母の文字と、「お前はお前らしく生きればいい」という父の言葉が、そこにあった。どちらも素直な思いが込められていて、読んでいるうちに胸が詰まるような感覚を覚えた。


私の両親も、私と同じように、それぞれの持病と向き合いながら生きてきた人たちだ。健康な体で過ごせる日が当たり前ではないからこそ、互いに気を遣い、支え合いながら日々を過ごしている。そんな両親を見て育った私は、彼らに心配をかけまいと、いつも自分の弱さを隠してきた。


でも、本当はわかっていたのかもしれない。自分がどんなに無理をしても、両親の目には全部見透かされていたことを。だからこそ、あの手紙の中の言葉は、まるで「無理しなくていいよ」とそっと背中を押されるような温かさがあった。自分の存在をそのまま受け入れてくれているような、そんな安心感に包まれた。


ただ、その優しさが時には苦しく感じることもある。私が両親の期待に応えられないことが多すぎると感じてしまうからだ。両親は、私が幸せに生きていることを願ってくれている。それはわかっているし、そのためにいろいろと気遣ってくれる。でも、私の不安や苦しみは、時に彼らの気持ちとすれ違ってしまう。


それでも、手紙は変わらず私の部屋の引き出しにしまってある。辛くてどうしようもないとき、あの文字を見返すだけで、少し心が軽くなる気がする。自分に何かあったとき、両親はどう感じるのか――そんな考えが頭をよぎる日もある。でも、今はただ、両親がいてくれること、その存在が私の支えであることを大切にしたい。


親からの手紙は、単なる紙と文字の寄せ集めではない。そこには、日常では言えない感謝や心配、愛情が詰まっている。私はあの手紙を通じて、両親の想いを知ることができたし、自分自身の弱さも少しだけ許せるようになった気がする。どんなに遠く感じることがあっても、その手紙がある限り、私はいつでも「帰れる場所」を見つけることができるのかもしれない。

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