第2話 声にならない叫び

「どうして分かってくれないんだろう?」この問いが、頭の中で何度も繰り返されることがある。人との会話や、職場でのやり取りの中で、気持ちを伝えようとするたびに、自分の言葉がどこか宙に浮いてしまうような感覚に襲われる。まるで、声を張り上げているのに、誰にも届かない無音の叫びのようだ。


言葉を紡ぐのは簡単ではない。特に、自分の気持ちや考えを正確に伝えようとすると、途端に口が重くなる。頭の中にはたくさんの想いが渦巻いているのに、それをうまく形にできない。話している相手は、私の言葉を待ってくれている。だけど、口を開くたびに、自分の中の「伝えたいこと」と「実際に口から出る言葉」との間に、大きな溝があることを感じてしまう。


だから、どうしても誤解される。意図していないことが伝わったり、言葉足らずで相手を困らせてしまったり。そうやって少しずつ、人との距離が開いていく。その距離が、また不安を呼び寄せる。そして、心の中で「分かってほしい」という思いが、声にならない叫びとなって響き続ける。


そんなとき、救いになってくれるのは、カラオケだ。音楽に合わせて歌を口にするとき、言葉がスムーズに流れ出る。それは、自分の声がようやく自由になれる瞬間だ。歌詞に乗せて、自分の中に溜まっていた感情が解放される。人前で話すのが苦手な自分でも、歌なら思い切り声を出せる。自分の心の中で迷子になっていた言葉たちが、音楽に導かれて外に出ていく感覚が、心地よい。


カラオケボックスの中でだけは、誰に気を遣うこともなく、思い切り歌える。それが、私にとってのささやかな安らぎの時間。声にならない叫びが、少しずつ形を持ち始める場所だ。

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