第44話 逃亡
次の日は、水族館に行った。
県内で一番大きな所で、デートスポットでも有名だった。僕たちは電車を乗りついで、水族館にたどり着いた。
「大丈夫なの?」
「うん」
僕は二人分の入場券を買って、水族館に入った。
「大丈夫?」
母親が心配したように、言った。
「ちょっと体調が悪いだけ」
僕たちは、サメとかチンアナゴとか、イルカを見た。志穂は楽しそうにはしゃいだ。
『智也くん大丈夫?』
『だるくて、サボっただけだよ』
杉崎からのメールに答えて、僕はイルカが飛ばす飛沫に目を細める。横では志穂が笑いながら、怒っている。
「最悪べったべた……。やっぱりレインコート買えばよかった。でも、楽しいね」
ずぶ濡れになった僕たちは、乾くまで園内を散歩することにした。外には公園とカフェがあって、芝生の上にテーブルセットがあった。僕たちはそこで楽しそうに笑う恋人たちを尻目に、サメの迫力や、イルカの聡明さを語った。
雲一つない空の下、濡れていた服はすぐに乾いた。
「次は何見に行く?」
僕がそう訊くと、志穂は俯いた。彼女は何かを言おうとして、でも口をつぐんだ。
「イワシ見に行こうよ。群れになって、一つのでかい生き物に見えるやつ」
「そうだね。そうしよっか」
イワシは、数え切れないほどいた。
水槽が前面イワシで埋まってしまいそうなほど、壮大な光景だった。一匹一匹が光を反射するごとに、きらきらと輝いて綺麗だった。
「大丈夫?」
「うん」
「ほんとうに?」
「ほんとうに大丈夫だよ」
水族館を出ると、外はもう真っ暗だった。
「明日はどこ行こうか?」
僕が言うと、志穂は複雑な表情で笑った。
それから僕たちは毎日どこかに出かけた。ショッピングモール、カフェ、ボーリング。とにかく遊び回った。僕はその毎日が楽しかった。
ある日カラオケで、志穂が歌っている途中にメールの着信音がなった。スマホを取り出して、見る。でもそこには何のメッセージもなかった。
「どうしたの、智也くん?」
「ああ、ごめん」
僕は一度思考を断ち切って、暗い部屋に戻り、スマホを手に取る。
そこには杉崎からの、メッセージがあった。
『大丈夫? なにかあったの?』
『なんでもないよ』
『なんでもないって、もう何日も学校来てないじゃん。困ってるなら、相談のるよ?』
『ないよ。ていうか、もう関わらないって言わなかった?』
僕は志穂の歌に合いの手を入れながら、杉崎とメールのやりとりをした。正直、もう億劫だった。
『今度の日曜日、吹奏楽部の最後の大会があるんだ。場所は前に智也くんが来てくれたときと、同じ所。家に引きこもってるぐらいなら来てよ。待ってるから』
僕はそのメールに返信することなく、パソコンのキーボードを叩いた。もう、うんざりだった。
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