第43話 虚像
次の日も、僕は志穂と遊びに出かけた。
電車で海沿いまで行き、古びた街を歩いた。空は良く晴れていた。特に何もない中、街の片隅に映画館があった。自営で、数本の最新の映画と昔の映画を流していた。僕たちは店主のおじいさんにお金を払い、古い映画を見た。それは二重人格のいかれた男の話だった。ラスト、男は自分を撃って終わった。僕にはさっぱり分からない映画だったが、志穂は感動したようだった。目許を拭って、僕を見た。
「君も、人生を無駄にしないようにね」
それから、僕たちは昼飯を食べたり、街をぶらぶらしていると、近くから太鼓と笛の音が聞こえてきた。その方角に歩いていくと、どうやら祭りが行われているようで、多くの観光客らしき人がいた。赤く灯る提灯を抜けると、通りにずらりと屋台が並んでいた。
たこ焼き、フランクフルト、チョコバナナ。志穂が楽しげに振り返る。僕は頷いて、志穂と屋台を回る。何かの焦げる匂いと、賑やかな祭囃子の中を、僕たちは歩く。人ごみで、はぐれないように、自然と僕たちは手を繋ぐ。たこ焼きを二人で分け合い、その後もポテトだとかお好み焼きを二人で食べる。でも結局僕の胃袋が限界になって、志穂が一人で唐揚げ棒を食べている。僕はその間に射的をして、小さな熊のぬいぐるみを撃ち落とす。志穂にあげると、代わりにこれをあげると、唐揚げ棒の余りを渡される。それはいらないと返すと、志穂は笑った。
夜になると、自然と人は海の方に流れた。どうやら花火大会があるらしい。僕たちもその流れに身を任せ、浜辺に出た。ビニールシートはないので、コンビニの袋を地面に敷いて座った。
花火が打ち上がる。空に大きな光の花が開き、その光が海面に反射する。地響きのような音が鳴り、火薬の匂いが鼻をかすめる。次々と、海と空に花火が浮かぶ。見ているうちにどちらが本当の花火か、分からなくなる。
「なあ、志穂」
僕は呟く。
「ん?」
志穂が花火を見たまま、疑問符を返した。
「このまま、ずっと一緒にいてもいい?」
「だめだよ」
「どうして?」
「君は、この世界の人じゃないから。だから、ずっとはだめだよ。今私たちがいるのは、向こうで生きるためだから」
僕はどっちでも良い、と思った。空に浮かぶ花火も、海に浮かぶ花火も、何も変わりはない。見た目では区別はつかない。ただ、そこに存在しているかしていないか、それだけの違いだ。見る僕からしたら、何も違いはない。実像も虚像も、全て一緒だ。
なんとなく気まずくなって、僕は話をした。何かをごまかすために、僕の口は餌を求める鯉のように何度も動いた。以前志穂と来た海のこと、夏休みに同級生と行った海のことを、僕の口は話した。友人のコンタクトレンズを探した話で、志穂は言った。
「海でコンタクトをつけるのは、危ないらしいよ。そういう風に外れることもだけど、雑菌が繁殖して失明しちゃう可能性があるんだよ」
「志穂ってそういうこと詳しいよね」
「危機管理は大事だからね」
花火が終わると、空と海は一色の折り紙みたいに、ただ黒い闇だけが残った。
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夜。
浅野に一通、メールを送った。
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