第39話 オートマチック
その日から、僕は機械になった。なろうとした。
言われたことを深く考えず、ただ命令に従う。そうしていれば、何も起こらない。自分に向かう暴言も、ただ記号として認識すれば、心は痛まない。
ある日、山本に言われて、パンと牛乳を買っていると、ふいに横から浅野が現れた。心配そうな表情だった。
僕がいじめを受け始めてから、浅野はその対象からは外れていた。
「壊したのは、智也じゃないんだろ?」
「そうだよ」
「じゃあ、言ってやれよ。俺じゃないって……」
僕はもう、何も考えたくなかった。
「もういいんだ」
「でもっ……」
「ほっといてくれ」
機械になろうとした。
でもそんなこと、不可能だった。
胸の奥にはずっと、黒く醜い苦しさがあった。
*
やがて僕は口を開かなくなった。
他のクラスメイトとも、話すことはなかった。ただ言われた通りに身体を動かし、感情を殺した。
間違いだった、と思った。
人と関わろうとしたことが、間違いだった。以前のように、一人で生きていれば、こんなことにはならなかった。誰かに嫌われることも、冷たい言葉を吐かれることもなかった。
僕は後悔した。
人と関わりたいと思ったことも。誰かと心を通わせたいと思ったことも。
こんなにも傷つくのなら、ずっと、一人のままでいれば良かった。
授業終わり、山本たちの昼食を買いに、僕は席を立つ。
いつもはそのまま一階の購買に向かう。でも、今日はその足で階段を登っていた。なぜかは分からない。たぶん、機械が故障したのだ。扉を開けると、そこに青空があった。屋上に吹く秋風が、僕の頬を通り抜けた。
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