第38話 悲劇の

 志穂からの返信は来なくなった。

 文化祭が終わったあと、家に帰ってすぐパソコンを開いて、文字を打った。でも、一時間たっても二時間たっても、返事はなかった。

 僕はずっと、呼びかけ続けた。


「なあ、志穂」

「どうした?」

「大丈夫か?」


 それから、一時間たっても、パソコンの画面には何も現れなかった。


「志穂」

「何かあった?」

「返事してくれよ」


 さらに一時間。変化はなかった。


「なあ、志穂」

「僕はもう無理かもしれない」

「今日、文化祭があったんだ」

「けど、完成させたはずの看板が割れていて」

「僕のせいになった」

「次はきっと僕だよ」

「いじめられるんだ」


 こんな、どうしようもない文章を書いている自分が、情けなかった。頭は混乱していて、額からは汗が垂れてくる。


「志穂」


 一人じゃ何にもできない、どうしようもない自分が、震える手でキーボードに触れる。

 

「僕は、どうしたらいい?」


 * * *

 

 文化祭、翌日。

 学校に行くと、僕の机の上に百円玉があった。


「智也、それでパン買ってきてくれよ」


 周りには浅野と山本を除いた他のメンバー。

 僕はただ、そこから動けずに、机上の黒光りする百円玉を見ていた。金縛りにあったみたいに、身体に力が入らなかった。


「なあ、早くしてくれよ」


 西野が、催促するように机を蹴る。


「昨日の文化祭が失敗したのは、誰のせいだ?」

「一人残されたからって、やけになって壊したんだろ? そのせいで、最後の文化祭がだいなしだよ」

「そうそう、責任とってくれよな」


 三人に囲まれて、僕は何も言えずにいる。

 そのとき、後ろから、声が聞こえた。


「なにしてんだよ」


 身体の金縛りが解けて、僕は振り返った。

 そこには、山本がいた。


「おー、山本。あのさ。おれ今日朝飯くってねーから、今腹減っててさ。だから、智也に買ってきてもらおーとしてたんだよ」


 西野は、平然とそう言った。

 その言葉に山本は笑って、


「そっか。じゃあ智也、行ってこいよ」

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