第37話 メランコリー

 文化祭まで一週間をきると、学校が、にわかに慌ただしくなった。

 僕たちのグループも、授業時間では足りず、放課後に居残りをして作業することになった。木材をノコギリで切り、ヤスリで微調整をする。入り口に立てかける看板であるため、できるだけ大きい方がいいという案があり、成人男性ほどの大きさの板を作った。

 絵を描ける人はいなかったので、余った木材で文字を作ろうということになった。そう、なったのだけれど。


「めんどくせー」


 隣で作業する山本が愚痴を零す。考えてみれば簡単に分かるのだけれど、木材で字をかたどるというのは中々至難の技だった。お化けやしき。その六文字を作るだけのことに、僕たちは苦戦した。


 * * *


 文化祭前日。僕たちはその日も教室に残って作業をした。クラスメイトも、真剣な形相で何かを作っていた。

 日が暮れると、教室にいる人はだんだんと減っていく。


「すまん。俺バイトあるから、あとは任せた」


 浅野がそう言うと、一人、また一人とメンバーが減っていった。最終的に残ったのは、僕と山本で、他にクラスメイトはいなかった。


「なんでこんなめんどくせーの考えちゃったかな」


 そう言いながらも、あと一文字というところまで僕たちはやり終えた。一文字を二人でやる必要もないので、山本は先に帰っていった。

 夜、教室に一人。作業を続けていると、電話が鳴った。相手は杉崎だった。

 しばらくすると、教室に彼女が入ってきた。


「うわっ、ほんとに一人だ。寂しいね」

「もっと他にかける言葉があると思うけど」

「頑張ってるね、とか?」

「そうだよ」


 杉崎はお化け屋敷になる教室を、面白そうに見渡した。


「杉崎はこの時間まで練習?」

「まぁね。そこそこ大事な役だから」

「それは楽しみだ」

「いいよ、楽しみにしないで」


 なんでもない会話が、夜の教室に響く。教室は、窓の外が暗闇に覆われているというだけで、昼とはまるで違う空間のように思えた。


「大丈夫?」

「なにが?」

「いや、なんでもない」


 杉崎は僕の作業を、ただ眺めていた。文字を作るだけという地味なことを。


「おもしろい?」

「おもしろいよ」


 それから二十分くらいで、看板は完成した。


「お腹すいたから、どこか帰りに食べてこうよ」


 疲れ果て、そして空腹だった僕は、その杉崎の提案に乗った。

 教室を出ていくとき、完成した看板をもう一度確認して、電気を消した。



 

 翌日、教室に行くと、看板は割れていた。

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