第34話 現肢痛
「お化け屋敷やるんだったら、泣かせるくらいのやつ作れよ。私も楽しみにしてるから。……それで、学校からでる予算は一万だ。少ないけど、やりくりして何とか作ってくれ。はい、じゃあ後は任せた。健闘を祈る」
バタン。
説明を簡潔に終えた吉岡先生が、足早に教室を出て行く。もう放任を越えて、職務放棄のような気がしなくもなかった。
ホームルーム長が、先生の代わりに前に出て、騒がしくなるクラスを落ち着かせる。もうこの人が先生で良いんじゃないか。そんなことを思いながら、僕は窓の外を見る。
昨日は結局四人でバッティングセンターに行き、一人メンバーが欠けたまま、僕たちは遊んだ。いつもと違う空気の中、僕はどうしようもなく居心地が悪かった。山本はいつも通り振る舞っていたが、僕には空元気のように見えた。いつもは奥のネットまで打ち返すのに、昨日は詰まった当たりばかりだった。
窓に映る、後ろの山本の顔を見て、僕はまた胸に黒い靄が現れるのが分かった。
優秀なホームルーム長により、お化け屋敷の計画は順調に進み、班分けをしてパートごとに作ることが決まった。僕たちはいつもの六人でグループを作り、何を作るか相談をする。
「お化けといったら貞子だろ」
真っ先に、浅野が言う。
「カツラ被って?」
「そ。あと白い服を着ればそれで完成」
「まあ、確かに楽だよな。定番だし」
一度まとまりかけた意見だったけれど、西野が「やめようぜ」と反論した。
「どして?」
「ほら、そういうのやるとさ、文化祭中ずっとやんねーとダメだろ? おれ色んなとこ回りたいから、そういうのやめようぜ」
確かに驚かせる側になると、人が来る度に動かなければいけない。文化祭を回る時間は、その分減ることになる。
「だから、あれだ。入り口の看板でも作ればいいんだよ」
そう言うと、西野はホームルーム長を呼び、看板作りをやる班はあるのかをきいた。
「いや、まだ決まってない。やってくれるんだったら、やってもらいたいけど」
西野の意見は、もっともなので、僕たちは看板作りという仕事を担当することになった。
*
「看板作りかー、なんだか地味だね」
「確かにな。でも文化祭中は自由で、杉崎の演劇も見れるから悪くはないよ」
「やめてよ。本当に、見に来ないで。私演技ヘタだもん」
帰り際、杉崎が来て、この前と同じように僕たちは教室で話していた。
特に意味のある話ではない。でも、そのどうでもいい話が、心地よかった。会話が楽しいと、ちゃんと思うことができた。
「見に来てもいいけど、笑わないでよ」
「笑わないよ、たぶん」
「笑ったら、智也くんが中二病だって、みんなにばらすから」
どんな脅しだよ、と僕は突っ込みをいれる。
そして、鳩尾辺りの痛みを見てみぬふりをして、僕は杉崎と話しを続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます