第33話 普通のこと

 以前から感じていたことがある。

 小学校、中学校、高校。三つの集団に属してきて、それはほとんど確信に近かった。


 ──いじめは、なくならない。


 少なくとも、僕が通っていた学校では当然のようにあった。一学年に一人の割合、もしくはそれ以上いて、知り合いが当事者だった。なんてこともある。

 クラス内でのいじめという集団的なものでなくても、少人数のグループ内のいじめを合わせればさらに多くなる。クラスに一人はピアノを弾ける人がいるみたいに、一学年に一人はいじめられている。


 それが常識で、それが普通だった。

 だから、今回のことも、そう、驚きはしなかった。

 ──はず、だった。


 * * *


 夏休みが終わり、受験生は文字通り受験のために勉強をする。

 夏休みロスになって、手がつかないといった人もいるにはいるが、基本的には真面目に授業を受けている。塾に通うクラスメイトは、学校を足早に去っていき、それ以外は自主室に残って勉強をするか、家に帰って勉強をしている。

 ただ、もちろん例外もいる。


「智也、遊びいこーぜ」


 九月、中旬。

 蝉の音は息を潜め、窓の外の太陽もずいぶんと勢いを落とした中、山本は僕の肩を叩いていった。


「いいけど……宿題は終わったの?」

「ああ、うん。……ま、ちょっと残ってるけど、大丈夫だ。ほら、いこーぜ」


 そうして、山本がメンバーを呼びかける。ピアスをあけた笠原と、金髪の西野が来て、遅れて川谷がやってくる。浅野はどこかにいったのか、教室にはいなかった。


「わりぃ、おれ今日部活あるからパスで」


 部活用の鞄を持った川谷が言った。

 彼はサッカー部で、まだ冬に大会を控えているらしい。サッカー部は受験大丈夫なのだろうかと、いつも心配になる。

 川谷が教室を出ていくと、山本が浅野を誘うためか、携帯を取り出した。


「なあ、もうおれらだけでよくね?」


 ふいに、笠原がいった。

 山本の文字を打つ手が、止まる。


「浅野とろいから、置いてこうぜ」


 西野がいって、笠原は笑った。


「あいつ前から思ってたけど、ちょっと違うよな」

「だよな、種族が違うってか」

「おい豚とかいうなよ。かわいそだろ」

「いってねーよ。川谷はいってたけどな」


 山本は固まったままだった。

 それから二人の会話が流れるように過ぎていき、別の話題に移ったところで、山本がぎこちない笑顔のまま言った。


「今日は四人でいくか」


 僕はどうしていいか分からず、ただ心が晴れないまま、山本の顔を見ていた。

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