第25話 透明

 そのまま荷物の警備をしていると、杉崎が休みにやってきた。


「智也くん、どうしたの。疲れてるの?」


 僕がぼうっとしているのを見て、杉崎がいった。


「そう、疲れてるんだ。だから次の見張りも僕がやるから、杉崎は遊んでていいよ」

「四十の保護者みたいなこと言わないでよ。智也くん、まだピカピカの十代なんだよ?」

「ピカピカって表現間違ってない?」

「あってるよ。絶対。……まあそれはいいとして、お言葉に甘えて、あそんでくる。また疲れたら休みにくるから」


 そういって杉崎はまた、遊びに戻っていった。

 僕はその光景を不思議に思いながら見ていた。

 いったい、みんなどこからそんな体力が湧いてくるのだろう。


 単純に疑問だ。同じ十代で、持久力はそんなに変わらない。むしろ男であるアドバンテージまであるのに、僕は彼らのようには遊べない。体の作りが違うのだろうか。いや、精神的な違いだと僕は思った。

 夏空の下。遊ぶ、同級生。

 僕とは違う世界の住人。どれだけ仲良くなっても、その感覚だけは消えなかった。

 水しぶきがきらきらと輝いて、眩しかった。


「おう、どうしたよ。そんな面して」


 しばらくして前からやってきた山本が、そんなことをいった。


「そんな疲れてるように見える?」

「ああ。もう今にも寝そうな顔」


 山本は浅野と同じように、荷物を挟んで横に座った。その反動で髪を伝った水滴が一つ落ちて、彼の割れた腹筋の上に着地する。


「楽しかったか、今日?」


 僕はちょっとした偶然に、目を丸くした。


「どしたんだよ。顔にワカメでもついてるか?」

「いや、浅野と同じこと言うから、ちょっと面白くて」

「そうか。まあ、浅野とは一年からの付き合いだからな。似たりするのかもな」


 山本は、少し笑って、そして僕を見ていった。


「それより智也、ちょっと、頼みがある」

「どうしたの?」

「コンタクト、落としたんだ、探してくれ」

「もっと早くいってよ。ていうかコンタクトだったんだ」

「昔から視力悪いんだよ」


 そうして、僕はコンタクト探しをする事になった。どうやら、僕のところまで歩いているとき、海水が目に入り、こすったとき取れたらしい。


「楽しかったか? っていったときにはもう取れてた」

「なんで人の心配を先にするんだよ」

「かっこつけたいからな」


 僕は四つん這いになりながら、砂を間近で見て探す。しかし、透明なそれは、どこまでも見つかりにくい。夢中になって探しているうちに、後ろから山本の声が聞こえた。


「智也、あった」


 彼の手には、透明なガラスのようなものがあった。


「よかった」

「ああ。ありがとな、智也。助かった」


 そう言うと、コンタクトを洗いに行くのか、海の家の方に山本は歩いていった。

 僕はまた一人になったが、さっき見た景色とは明らかに何かが違った。青空はさっきより青く、海はより眩しい。

 砂をずっと見ていたせいだろうか。

 上を向くと、ピカピカと輝く太陽があった。

 次に海にきたときは、一日中遊べるようにしよう。そう僕は強く思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る