第23話 夏色
視界の全てが青い。
空や海はもちろん、その周りの景色も、どうしてか、そう思える。眩しい太陽光の下、人が素肌で水の中を動き回っている。水しぶきがあがり、笑い声が聞こえる。
夏だ、と僕はおもう。
見張り番のためシートの上で、海を見ていると改めてこの場所の眩しさを感じる。本当に自分がここにいていいのか疑いたくなるほど、何か世界の色が違う。
最後から二番目の見張り役だった僕は、くたくたで、正直もう遊ぶ気力はなかった。泳いだり、ビーチフラッグをしたり、海で鬼ごっこをしたりして、すでに身体が悲鳴をあげていた。
だから、このシートの上で次の見張り番が来てもこうしていようと思った。次は確か杉崎だったから、代わりにやることを伝えるか、そのまま二人で何か話したりすれば、僕の身体が壊れることはないだろう。
あとはただ、十二人分の持ち物が盗まれないように見張っていればいいのだ。
そう思って、ぼうっと景色を眺めたり、十二個ポーチがあるかを確かめたりしていると、後ろから声が降ってきた。
「智也」
振り向くと、そこに浅野が立っていた。
髪は濡れ、少しぽっちゃりとしたお腹が突き出て、光を反射している。
「ちょっと疲れたから抜け出してきた」
そういうと荷物を挟んで浅野は座った。
「水の中って、やたらと疲れるよなー。明日は絶対筋肉痛だわ」
「僕もだよ。だから、もうこのまま休もうかなって思ってる」
「はは。それは良い考えだな。俺もそうしようかな」
浅野はそういって、海で遊びまわっている十人のメンバーを見た。
つられて僕もみると、今は、どうやら海の家で借りた水鉄砲で擬似戦争を行っているようだった。五対五に別れて、撃ち合っていた。
「智也は今日、楽しかったか?」
心配するような声で、浅野がいった。
「うん。楽しかった。なんか違う国にきたみたい」
「なんだよそれ」
浅野は穏やかに笑う。
「でもよかったよ。智也が馴染めてるみたいで。俺ちょっと心配だったんだ。もし一人ぼっちで砂浜に五重の塔作ってたらどうしようって、思ってた」
「そんな高等技術ないよ」
僕は少し笑ってしまう。
なんだか浅野といると、異様に安心感を感じた。父親みたいな友人。そういう雰囲気が彼にはあった。
「五重の塔、つくるか? 今から」
「本気でいってる?」
「知ってるか? 俺大工の息子なんだぜ。そんなのちょちょいのちょいだよ」
「大工と砂遊びは関係ない気がするのは僕だけ?」
でも、少し面白そうなので、本気で僕たちは五重の塔を制作することにした。
「智也、ちょっと海水とってきて」
そう、現場監督に言われたので、僕は空のペットボトルを持って海に近づき、水を入れた。それを持っていくと、
「あとは任せろ」
と監督がいって、砂に海水を含ませて土台を作った。
ちょうど土台が完成したとき、ふいに監督におよびがかかった。
「浅野! ちょっとこいよ。お前にぴったりの穴掘ったんだ」
監督が浅野にもどり、砂浜で殺す気かと突っ込みをいれる。そして「五重の塔はまたこんどな」といって、みんなのもとに向かっていった。
僕は一人になって、三重の塔位なら作れるだろうかと思い、やっぱりめんどくさくなって、やめた。
もう使わなくなった建設用海水を、砂に流す。そこに小さな池ができ、空の色を反射する。きらきらと輝き、世界の色を、映し出す。
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