第20話 中盤戦
「やるじゃん智也くん。本当に勝っちゃったよ」
「ファイヤーアタック、どうだった?」
「うん。なんか、すごい、普通だった」
フルセットまでもつれ込んだ試合は、激戦の末、僕たちが勝った。それでも足はふらふらで、今にもへたり込みそうな状態だった。
僕たちは日陰まで避難し、息を整える。心臓がバクバクと脈を打ち、僕は熱中症寸前だった。
「顔赤いよ? さすがに恥ずかしくなってきた?」
「いや、ファイヤーアタックじゃなくて、普通に体温がおかしいだけ」
「もしかして、熱?」
そういって、杉崎が僕の額に手を当てる。
「はは。私も熱いから、分かんないや」
「ていうか海入ったほうがいいかも」
「たしかに。目の前にあるなら、入りたいよね」
真夏日、露出した肌、運動。
熱中症に必要な要因は、全て出揃っている。しかし、僕たちだけコートから離れて海に入るわけにも行かないので、取りあえずこうしている他ない。
コートでは、山本がアタックを決め、大げさにガッツポーズをとっていた。これで勝ったほうが、僕たちと戦うことになっている。
「疲れ過ぎてシード権貰えたのは、ラッキーだったね」
僕たちの試合後、へとへとになった僕と杉崎を見て、山本はしょうがねーなと頭をかいた。
「山本は優しいよな」
「確かに。なんていうか、みんなに気を使える人だよね。……でも試合になったら、容赦してこないみたい」
再びアタックを決めて、山本はさらに拳を突き上げていた。確かに、試合では気を使っているようには見えない。それはたぶん、優勝してやりたいことがあるからだろう。
「ね、もし私たちが優勝したらどうする?」
「昼飯おごってもらうとか?」
「それは生々しすぎない? もっとポップなやつにしようよ」
ポップなお願いってなんだよ。そう思いながら、山本が試合前に言ったことを思い出す。
──これで優勝したペアは、なんでも言うこときかせられる権が授与されます。
合コンかよ、とまたツッコミたくなるほど、山本の言ったことは、そういうことだった。誰か、気になっている子でもいるんだろうか。そう考えて、そういう話は山本と話していなかったことに気づいた。
「杉崎は、どういうのがいいの?」
「そうだなー、智也くんのことを『漆黒の智也』って呼ばせるくらいかな」
「それのどこがポップなの?」
「ほら、誰も傷つかないじゃん」
「傷ついてる人、いると思うよ。絶対」
そう言うと、杉崎は静かに笑った。
そうこうしている間に、試合が終わり、満面の笑みの山本がコートに立っていた。
「智也、はやく来いよ! 瞬殺するから!」
恐ろしいほどの殺気を、僕は山本の目から感じた。ライオンがシマウマを捕らえて殺す前の目だった。遊びとは程遠い殺気だ。
「やれー山本」
「灯葉ちゃんがんばれー!」
「死ぬなよ!」
コート外では敗戦したペアたちが、僕たちのゲームをはやし立てる。まるで、全国大会の決勝戦みたいな雰囲気だった。
「こいよ、智也」
猛獣の目が赤く光り、決勝戦が始まった。
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