第19話 中二の夏

 山本のペアが勝ち、次の試合が始まった。

 浅野と、クラスメイトの女子がペアだった。女子の方はバレー部なのか、綺麗なアタックを次々に決めていっていた。浅野はトスを上げることに専念していた。得点が入り、歓声が起こる。


「桜の樹の下には、知ってる?」

「うん、知ってるよ」


 僕たちは次の試合に出る。

 なるべく動けるように、ストレッチをしながら、僕はいう。


「小学生のとき、幼なじみが好きだった」

「はは、小学生か。なかなか大人びてるね、その子」

「うん。確かにそうかも」


 僕は志穂のことを思い出して、少し胸が苦しくなる。まだうやむやになったまま、僕と志穂の関係は続いていた。


「なあ」


 僕は、冗談をいうみたいに杉崎にきいた。


「物語の中のキャラクターに、好きだって言われたら、どうする?」


 言われて、瞬時に理解できなかったのか、杉崎がぽかんとした顔で僕を見た。


「……どういうこと?」

「いや、たとえばの話。キャラクターが作られた物語を超えて、君を好きになったとして」

「キャラクターに自我が宿ったら、ってこと?」

「そう。それでキャラクターが脚本を無視して、君に告白をしたら」


 杉崎は少し悩んだようにして、僕の方を見ていた。そしていった。


「もし、そんなことがあったら、だけど。私は断るかな」

「どうして?」

「だって、生きてる次元が違うんだもん。好きだったとしても、手も触れられないし、キスもできないんだよ。それなら、会わないほうがよくない?」


 それはまともで、理論的な理由だったけれど、僕は少し気落ちした。それに気づいたのか、杉崎が少し笑っていった。


「智也くんって、もしかして中二病?」

「違うよ。これは、その、たとえばの話ってだけで」


 弁解をすると、彼女はさらに面白そうに笑った。


「はは、だってそのたとえばを考えてる時点でそうだよ。きっと中二病なんだよ」

「だから違うって」

「いいよ。中二病は悪いことじゃないから。むしろ素っ頓狂なことするから、好きだよ」


 そのあとも僕の言い訳を杉崎は聞こうとせずに、ひらひらとかわした。そして、それから僕を面白そうな目で見るようになった。話さなければ良かったと思ったけれど、杉崎が楽しそうだったのでまあいいやと考え直す。

 その間に浅野たちの試合が終わり、ついに僕たちの番がきた。どうやら浅野のペアが負けたようで、なぜか浅野が非難されていた。


「浅野が足ひっぱってたな」

「あーあ、佳奈頑張ってたのになー」

「運動神経ないよな、あいつ」

「太ってるからだろ」


 さすがに言い過ぎだろ、そう思ったところで、山本の声が非難の声をわる。


「はい! じゃあ次! 智也と灯葉ちゃんペア、と、拓也と麻里奈ペアな! 智也、球技大会のときみたいなの、期待してるからな」


 僕は何も言えず、曖昧に頷いた。

 すると杉崎が横からやってきて


「智也くんうまいんだ。じゃあアタックは任せるね。期待してるから。そうだ、ファイヤーアタックとか出してみてよ」


 完全におちょくられてるなと思いながら、僕は、砂浜のコートに足を踏み出した。



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