第10話 夕日と影と君

 そのような日々に意味があったのか、僕は少しずつクラスメイトと話すようになった。次の授業を聞かれたり、グループワークに参加できただけで、少し嬉しくなる自分がいた。

 やっと、まともになれそうな気がした。

 五月になって、球技大会があった。クラスでリーダーが五人出て、チーム分けが行われた。僕は山本の班で、全員で六人。リーダーシップのある彼は、みんなをまとめ適度に志気をあげた。


「学校行事とはいえ、スポーツだ。本気でやって、優勝して、女子にモテようぜ!」


 その言葉のおかげか、僕たちのチームは優勝した。引きこもっていた僕も、ランニングをしていたおかげか、なんとか足を引っ張らず勝利に貢献することができた。


 夕方の運動場。

 クラスメイトたちは、高揚した顔で、仲間と楽しそうに語り合っていた。何かをやり遂げたような表情に、満足感があった。まるで青春そのものが、この場にあるような気がした。

 放送部の指示によってグループごとに整列し、校長のよく頑張りました、みたいな話が永遠のように続いた。


 後方にいた僕たちのグループからは、ほかの生徒の姿がよく見えた。

 右前方には、やんちゃそうなグループがあって、そこからは大きな声が聞こえた。その中には浅野もいて、ずいぶん疲れた様子だったが、笑顔を見せていた。

 ふいに後ろから山本の声がした。


「なあ、智也って部活とかやってんの?」


 振り返って、答える。


「いや、やってないけど」   

「そっかー、でもうまかったな。バレーのアタックとか、普通に決まってたしな」

「中学までスポーツやってたから」

「そっか。結構やるじゃん、智也」


 その、ただ名前が呼ばれたことが、嬉しかった。

 前方で、浅野の頭が叩かれて、笑いが起こったところで、校長の話が止み、高校最後の球技大会が終わった。


 そのあと、優勝祝いで僕たちのチームは打ち上げにいき、僕は話すことに詰まりながらも、山本が適度に助け船をだすことによって、救われた。

 打ち上げが終わったあと、帰り道が同じで、僕は山本と駅まで歩いた。誰かと一緒に帰るのは、とても懐かしいような気がした。

 月明かりの下、住宅街を歩いた。


「今日、楽しかったな」

「うん」

「智也うまかったしな。お前選んで、正解だったぜ」

「……ありがとう」


 こういうとき、話題が膨らむように、気の利いた言葉を言えれば良かったけれど、今の僕にはその技術もなかった。

 数秒間、沈黙あった。

 その間、雲が流れて月に重なり、あたりが暗くなった。


「なあ」


 横から突然山本が消えて、後ろを振り返ると、彼は地面を見ていた。


「俺のグループ入らないか?」

「え?」


 何をいっているのか、よく分からなかった。コミュニケーション不足のせいか、彼の感情が分からなかった。喜びなのか、悲しみなのかすら、その声からは判断がつかなかった。


「最近、がんばってんじゃん、智也。二年のときも同じクラスで見てたけど、前よりは暗くなくなったしさ。だから俺のグループ入ってみね?」


 彼はそういって、僕を見た。

 それでも意味が、僕には理解できなかった。


「友だちになろーぜ、ってこと」


 心情を汲み取ってか、彼がそういった。

 笑って、僕を見た。


「俺、興味あるんだよ、お前に」


 そのとき、雲が流れて、住宅街に月明かりが差した。

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