第9話 リメイク

 人に好かれる努力をしよう、そう思った。

 志穂に、いち早くまともになった僕を見せて安心させたかった。それに、時間には限りがある。いつの間にか高校生活が終わってしまった、なんて事になったら取り返しがつかない。高校の記憶は、高校生のときにしか得ることができない。それに、心を入れ替えただけで、人はきっと変われない。だから、僕は地道に努力をすることに決めた。


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「運動するといいよ」

「どうして?」

「身体動かすと元気になれるし。それに女子からもモテるよ」

「志穂は、痩せてるほうがいいの?」

「まあ、どっちかというとそうかも」


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 助言どおり、ランニングを始めた。引きこもっていたのせいか、筋肉がたるみ、いまの僕はどちらかというと、だらしない体格だった。筋肉をつけ、背筋を伸ばすことができれば、確かに人からの印象も良くなる。

 志穂に報告すると、『いっそ部活に入っちゃえば?』と精神的に無理なことを言われたので丁重に断っておいた。

 夜、家から二三キロ離れた公園まで走る。ランニングは意外と気持ちの良いものだった。引きこもりだった僕が久しぶりに身体を動かしたせいか、夜はぐっすりと眠れた。


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「あとは人の話を聞くことが大事かな」

「それくらいはできると思うけど」

「聞くだけじゃだめだよ。そこから会話をふくらませなきゃ」

「いまはふくらんでる?」

「わたしがふくらませてるかも」


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 寝る前に、ラジオを聞くことにした。

 引きこもっている間はそもそも人の会話を聞くことがなかった。だからとにかく会話を聞こうと思った。声だけで、分かりやすく話している芸能人からは学ぶものが多くあると思った。

 ランニングで疲れた身体で、三十分ぐらいすると寝落ちしてしまったりしたが、会話の面白さが分かったような気がした。

 そういう生活を始めた僕を、両親と中一の妹は意外そうに見ていた。

 もちろん志穂は喜んでいた。

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