第8話 パラレルワールド
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「話しかけてくれる人がいたんだ」
「うん、まあ。ぜんぜん話は続かなかったけどね」
「一歩前進だよ。話しかけられないのが、一番大変だから」
「うん。まあ、たしかに」
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家に帰ってから、小説の教室の中で志穂と反省会をする。最近、それが日課になりつつあった。
志穂のアドバイスは、分かりやすく実行しやすい。僕の特性を知っているせいか、どうすれば人としてまともになれるのか、よく知っていた。
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「それで、志穂の方はどうなの?」
「うん、すっごく楽しいよ。本当に高校生になったみたい」
「それは良かった」
「ねぇ、ねぇ、こんど球技大会できない? やってみたかったんだ」
「もちろんいいけど。そういえば、みんなはどう? 本当に似てる?」
「うん。中学のときと違うところもあるけど、それが逆にリアルで高校っぽい。智也くんがしっかり描写してくれたおかげだよ」
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僕とは一方、志穂の生活は楽しそうだった。
高校生活をちゃんと満喫できているみたいだった。
志穂の高校生活をやり直す。
そのときに志穂がいったのだ。『どうせなら中学のときの仲間で、同じ高校に入ったことにしてやり直したい』と。それはもちろん、できないことはなかった。志穂のクラスに、中学(彼女が死んだ二年のとき)のクラスメイトの外見と性格と描写するだけでいいからだ。
でも、どうしてそんな提案をしてきたのか、僕には分からなかった。それを志穂に聞くと、何かをやり直すためだといった。
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「あ、そうそう、智也くん私と学級委員になったんだよ。今の君じゃ考えられないよね。もちろんこっちの智也くんには友だちもいて、部活にも入ってる。この世界の君は、とても楽しそうだよ」
「やめてくれよ。現実と比べて死にたくなるから」
「その位のストレスがないと、『変わろう!』って思えないでしょ? だから何回も言うよ。この世界の智也くんはとても楽しそうだよ」
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深く、ため息を吐く。
現実の僕は一人で、惨めで、ダサい生活を送っている。比較してしまうと、どうしてもやりきれない気持ちになる。
でもふっと、この世界もあり得たんじゃないか、と思った。志穂が死ななかったら、当時のクラスメイト全員は無理だろけど、僕と志穂は同じ学校に通って、たまたま同じクラスで……
───。
妄想を、意志の力で断ち切る。
これ以上、その『夢』を見たら、本当に死ぬかもしれないと思った。また、空想に逃げて、現実から目を背けるような気がした。
僕は、現実を変える。
これ以上志穂に、みっともない姿は、見せられないから。
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