下 悪魔への復讐 0
今日は、二話更新できた!
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「俺の勝ちだな、サーク」
そんな声が、土埃の奥から聞こえてくる。
「あぁ!やはり、君は素晴らしいよ!あの攻撃に耐えるなんて、いったいどんな手を使ったんだい?」
徐々に晴れていく土埃。
その奥に立つ男に対して、投げかけらる質問。
返される返事は、冷笑と拳。
「ハッ、お前も見えてんだろ?」
その言葉と同時に、土埃からインが飛び出し、サークに肉薄する。
インから放たれるのは、剣による斬撃ではなく、焼き爛れた右腕の拳。
それを、サークは躱すことなく剣と同じように受ける。
「…………ッ!」
直後、サークを襲うのは、魔力を伴う衝撃波。
無属性の魔力が、サークの体に叩きつけられる。
しかし、動揺は一瞬。すぐに、バックステップでインから距離を取る。
だが、先ほどの魔力が内臓の一部に傷をつけたのだろう。口の中を鉄の味が支配する。
「やっぱ君はすごいよ!ボクの体に傷をつけただけじゃなくて、吐血までさせるなんてね!」
サークは、そう言って少量の血を唾と一緒に吐き捨てる。
「血の味は久しぶりだなってか?ハハッ!」
「なんだい、それは?」
「知らないのか?俺の住んでる国に伝わる、お伽噺に出てくる超有名なセリフだぞ」
そんな言葉を交わしている間に、互いに負っている傷の状態を確認する。
サークが負った傷は、悪魔からすれば大したものではない。
だが、内臓の傷はそう簡単に、それも戦闘中に治せるほどの軽い傷ではないのも事実だ。
それよりも酷いのが、インの傷。
当の本人が痛がる様子を全く見せないが、体中が傷だらけで、見るも無残な有様だった。
特に酷いのは、両腕だ。
左腕は、火傷で焼け爛れており、腕中から血があふれ出ている。
右腕も、急速な温度低下で凍傷になっており、さらに腕の内部で雷属性の魔力が暴れたため、傷だけなら左腕よりも酷い。
右腕は先ほど、サークに対して攻撃で無理をしたためか、完全に腕がだらんと下がっており、動かすどころか力を入れることもできなかった。左腕は、魔力で強化してギリギリという有様。
それ以外にも、ふくらはぎや頭部からの出血もあるが、腕ほどではない。
(こりゃ酷いな)
心の中で、他人事のように呟くイン。
「そういや、『どうやってあの攻撃を防いだんだ?』つう質問だったか?」
インは、地面に落ちていた剣を拾い上げながらそう言う。
幸い、彼は右左どっちかの腕が使えなくなった時を想定して、利き腕関係なく同じ力で振れるように訓練していた。
「まあ、見えていただろうが、もう一度見せてやるよ」
その言葉と同時に、インの体から魔力があふれ、体の周りに纏う。
そう、サークや魔族が常に纏っているように。
「なるほど、君も壁を越えたんだね!」
冒険者のランク昇格には、いくつかの壁が存在する。
有名なものなら、B級とA級の壁。
この壁を超えるには、魔力の可視化が可能にならなければならない。
A級に昇格した冒険者は将来安泰、と言われるほどにこの壁を超えるのは難しい。
インも、この壁を越えた天才の一人だ。
「ああ。イチかバチかの賭けだったが、何とか勝てたぜ」
その言葉と同時に、インはもう一度サークに攻撃を仕掛ける。
しかし、今度はゆっくり歩きながら。
だが、世界には存在するのだ。A級の天才たちをも超える、化け物が。
人類史上、僅か五人しか到達していない究極の領域。
"S級冒険者"
A級からS級へと昇格するのに必要な条件はたった1つ。魔力の自由ば操作技術のみ。
これは、魔族が当たり前のように使っている技術だ。
サークは、魔力の斬撃で迫る脅威に対処する。
しかし、人間は違う。
魔法という技術に頼らなければ魔力を体外に放出できない。
S級はそんな、人間の常識をぶち壊した化け物だけが、上がることを許されるステージなのだ。
先程までならば、その攻撃を躱していたため、サークに近づけなかった。そう、先程までならば。
今までは、魔力を身体の強化にしか使ってこなかった魔力を、体外へと放出できるようになった今、彼は、最強の一角へと王手をかけていた。
「なんで、魔王様が君を気に入っているのか、少しわかった気がするよ!」
「そうなのか?俺、アイツに気に入られているのか……」
それは、奇妙な絵柄であった。
彼らの外側では、サークの魔力の斬撃と其れを迎撃するインの魔力が激しくぶつかり合っていた。
しかし、内側では、朝の散歩かのような足取りでサークとの距離を詰めていくインと、それを止めないサーク。
次第に両者の距離は詰められていき、遂にその距離がゼロとなる。
「これで、最後だな」
そんな、インの言葉に笑って頷くサーク。
「最後ぐらい、全力を出せよ。四天王」
「たはー!流石に、バレたか!」
「さすがに気づく。これが、2回目だからな」
そういうインは、どこか遠くを、過去を振り返るかのような様子を見せる。
「ボクは、君が過去に何をしてようと恨みはしない。今が、楽しいからね!」
そう言って、サークは右手に禍々しい気配を放つ一振りの刀を召喚する。
「この、刀の銘は【
「知ってるさ。前代にそれ使われて、散々苦労させられたからな」
「なんだよー。少しくらい、自慢させてくれよ!」
不満そうに、頬を膨らますサークにインは苦笑しながら返す。
そんな、二人の様子は先程まで殺し合っていたとは到底考えられない気楽さだった。
「これが、終わってからな。お前が死ぬまでの間、好きなだけ聞いてやるよ」
「ハハッ!言うね!でも、そっちの方がボクは好きだよ!」
インの煽りが合図になり、二人の魔力が最後の勝負に向けて膨らみ、膨張していく。
二人の魔力がぶつかり合い、周囲にスパークが起きる。
魔力量は、ほぼ互角。あとは、純粋な力と技術、勝利への熱意が決着をつける。
サークと共に、偵察任務に就いていた悪魔族の男たちは、団長であるサークの撤退命令を無視して、加勢に向かっていた。
「…………ッ!なんだこの濃密な魔力は!」
「きっと、サーク団長の魔力だろう!急ぐぞ!」
森の中を、サークの魔力を頼りに駆け抜けていく、四人の悪魔たち。
彼らは全員、族長一家の分家出身であり、古くからサークの副官として仕えていた者たちだ。
走り続けていると、遂にその現場にたどり着いた。
四人の悪魔たちの目に映ったのは、血だらけで立つ一人の男と、悪魔形態でその男を迎え撃とうとしている軍団長の姿だった。
二人は、あり得ない量の魔力を放出しており、その周囲に数多のスパークが巻き起こっていた。
「……あれは、魔族なのか?」
そんな、サークに次ぐ実力者である副官の声に応える者はいなかった。
返答がないことを不思議思い、後ろを振り返ってみると、そこには気絶した部下たちの姿があった。
「くそ!魔力にあてられたか!」
余りにも濃すぎる魔力に耐えるほどの実力を、部下たちは有していなかったのだ。
そんな間にも、激しさを増していく魔力の奔流。
遂には、2つの魔力が混ざり合い、1つの魔力となって、二人を覆ってしまった。
その瞬間、森に響き渡り始める、凄まじい轟音。
周囲に生えている木が、根っこから吹き飛んでいくほどの衝撃波が副官の男たちを襲う。
副官は、咄嗟に部下と己を魔力で保護し、近くにあった岩陰へと身を隠す。
轟音が響き渡っていたのは、たったの数十秒。されど、数十秒。
音が鳴りやみ、少しずつ二人を覆う魔力が消えていく。
衝撃波で吹き飛んだ空間の中央に立つのは、二人の人影。
だが、少しして片方の人影が、糸が切れたかのように、膝から崩れ落ちた。
魔力が晴れ、そこに立っていたのは、悪魔形態が解けた金髪の少年だった。
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サークとの戦闘はこれで終わり。あとは、事後処理で次回終わり。
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