中 悪魔への復讐 0

遅れての投稿すみません!思ったより、長引いてしまった………。

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「さあ、始めよう。華麗なる悪魔の踊りを!」


 サークのその宣言は、俺の地獄の始まりを告げていた。


 空中に浮遊した、サークから放たれる魔力の斬撃。

 もし、此処に立っているのが魔力を可視化できない人だったら。

 きっと、何をされたのかも理解できずに切り刻まれていただろう。


(まあ、そんなレベルの相手だったら悪魔形態になる必要もないだろうけど)


 飛んでくる、魔力の斬撃を避けながらそんなことを考える。

 正直、これぐらいの量なら問題はない。余計な思考を挟むぐらいの余裕があった。


(喜べばいいのやら、悲しめばいいのやら。よくわからんな)


「いいね!流石はA級だね!でも、まだまだこれからだよ!」


 サークのそんな言葉を皮切りに、魔力の斬撃の量が倍近くに増えた。

 さらに、一部の斬撃は属性付きだ。


(火、水、土、風、雷。チッ、全属性かよ)


 魔力の斬撃に乗っている属性を躱しながら観察する。

 属性を帯びている魔力の斬撃は、無属性の魔力よりも物理干渉が大きくなる。


 火なら燃える。水なら濡れる。土なら地面を作れる。

 風なら飛ばせる。雷なら感電させることができる。


 物理干渉が大きくなれば、必然的に肉体に負わせる事ができる傷も大きくなる。

 だから、属性を帯びてるものだけを優先的に躱していく。


(……ック。もう少しだ。もう少しで、何か掴める)


 だが、少しずつ、しかし確実にインの体に赤い線が刻まれていく。


「すごい、すごいよ!属性の有無を見分けられるなんてすごいよ!」

「…………ッ」


 既に、インに返事する余裕などなかった。

 飛んでくる魔力の斬撃を躱して、躱して、観察する。

 

「それじゃあ、もう少し増やしちゃおうかな!」


 サークの無邪気な声が、インの耳朶を打つ。

 そして、その言葉通りに斬撃が増える。増えたのは、属性付きの斬撃。

 

(くそ!どうする?)


 十の魔力の斬撃の落下地点を同時に把握し、それを躱す。

 躱した直後に現れる魔力の斬撃。またそれを躱す。でが、また出てくる。


 放つ魔力の斬撃の量を増やしていくサーク。

 それを、ひたすらに躱し続けるイン。

 先ほどまでとは、完全に立場が逆転していた。

 

 しかし、攻撃力ではサークの方が勝っていた。

 

 それは、裏の駆け引きでも同じであった。


(マジかよ。そういうことだったのか)


 斬撃を躱しながら、インは悟った。己の行動が、すべてサークに読まれていたことを。自分が誘導されていたことを。

 

(放つ斬撃の量を調整して、俺を殺す地点に誘導してたってか?ハハッ、バケモンだろ)


「どうやら、ボクの思惑に気づいたみたいだね!それで、君はどうするのかな?」


 サークの上から目線の問いかけ。

 その問いかけに、心の中と行動で答える。


(そんなん決まってるだろ。自分の命を賭けた、ギャンブルをするしかねえだろ!)


 サークは、止まらない。

 致命傷になりうる魔力の斬撃だけを躱して、観察に全神経を注ぐ。

 魔力を観察し、自らの糧とする。A級の壁を超えるために。スローライフを取り戻すために。

 

(誘導から外れることは不可能。なら、誘導地点までに適応する!)


 躱さなかった魔力の斬撃が、頬に傷をつける。

 最低限の攻撃しかかわさない分、負う傷が増えていく。


 

 

 誘導地点まで五秒。




 火属性を帯びた魔力の斬撃が、インの服を燃やす。


(もう少し、もう少し……)


 服が焼け、肌を焼く。

 ひたすら観察し続ける。痛みを気にすることなく。




 誘導地点まで四秒。




 土属性を帯びた魔力の斬撃が、火傷している右腕を切り裂く。

 

(もう少し、もう少し、もう少し…………)


 切り裂かれた腕から、鮮血があふれ出す。

 観察を続ける。痛みを我慢して。




 誘導地点まで三秒。




 水属性を帯びた魔力の斬撃が左腕に当たり、濡らす。


(もう少し、もう少し、もう少し、もう少し…………)


 濡れた左腕を、風属性を帯びた魔力の斬撃が撫でる。

 まだ観察を続ける。左腕の感覚が冷たさで、なくなっていくのを無視しながら。




 誘導地点まで二秒。




 雷属性を帯びた魔力の斬撃が左腕に直撃する。


(もう少し、もう少し、もう少し、もう少し、もう少し…………)


 水で濡れていた左腕を、雷属性の魔力が蹂躙しようと暴れまわる。

 だが観察を続ける。左腕から体に入ろうとする電気を、己の魔力でせき止めながら。




 誘導地点まで一秒。





 一度に放たれた、四個の無属性の魔力が両こめかみを掠める。


(もう少し、もう少し、もう少し、もう少し、もう少し、もう少し…………)


 こめかみから流れ出た血液が、目を滲ませる。

 最後まで、観察をやめない。体中を支配する痛みに耐えながら。

 

 サークの周りに、今までの攻撃よりも軽く上回る密度の魔力が集まるのを視認する。

 だが、観察をやめない。決めたから、己の力を信じると。


(来る、来る、来る、来る、来る…………………………)


「流石にここまでか。楽しかったよ、A級冒険者。イン」


 死の宣告と同時にサークから放たれる、色鮮やかに輝くようかに見える膨大な量の魔力の斬撃。

 

 自らのスローライフを壊した相手を殺すために。壊されたスローライフを取り戻すために。

 己の持っている記憶を、過去の経験を総動員して適応する。この、絶望的な状況に。








 (来た!)


 






 インへと直撃する、数百に上る様々な属性を帯びた魔力の斬撃。

 直撃の衝撃で、すさまじい音と魔力を含む衝撃波が起こる。

 その衝撃波は、火が燃え広がり崩壊しかけていた家を跡形もなく吹き飛ばす。


 


 サークは期待していた。己を超えうる可能性を秘めたこの男が、新たなステージに上がり自分を殺すことを。

 己のひいては魔族全体の王であり、崇拝する至極の主からの期待に応えるため。


 だから、男の大切にしているもの破壊し、男の潜在能力が覚醒するように戦闘を運んだ。

 お膳立てはすべて計画通りに、完璧な形で成功した。

 だから、あとは祈るのみ。この土埃が晴れた時に、あの男が立って自分に向かって不敵な笑みを浮かべていることを。


『我は、あの男が気に入ったのだ』


 そう、楽しそうに語る、自らの主を思い出す。

 いつも、表情はあまり変わらない主が、楽しそうな表情を浮かべていた。

 それだけで、衝撃だったが、主が言うその男は人間だというじゃないか。

 

 その話を聞いたときは、なぜそんなにその男を気に入っているのかが理解できなかった。

 でも、今なら少し理解できたような気がする。

 

 なぜなら。

 土埃の隙間から、此方を不敵な笑みを向けてくる男の姿が見えたから。





 「俺の勝ちだな、サーク」




 



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前話のあとがきで「次で終わらす」的なことを言いましたが、終わらなかった。

今度こそ、次話で終わらせます。

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