第10話 鵺殺し

 ウズマの鵺殺しの話は噂となって、瞬く間に広がった。

 鵺の死骸は死亡してから、朝廷に運ばれた。鵺は犬豪が遠い昔に倒した数件を除き、奇跡の様なものと思われていたのだ。

 そして、狼や虎退治の武勇伝よりも格上の誉れとして扱われる。


 事の顛末を求めて、フジは早速ウズマと参考としてキヨアキラを呼んだ。

 かくかくしかじかと、キヨアキラの方がよく喋り、グモヌシノカミの話をした時、フジは眉根を強くした。

「グモヌシノカミが、帝様を狙っていると?」

「はい。」

 キヨアキラは深刻な顔をした。

「一刻も早くグモヌシノカミを封印するか、討たねばなりません。」

「神を討てるのか?討てぬ存在として貴族がカミと称するくらいだぞ?」

 フジはカミと呼ばれても、それに傲慢する人間ではなかった。

 寧ろ、白狐の民に生まれた宿命の様なものと思っている。


「御神体ごと封印すればよいかと。とはいえ、ランパチが鵺に自分を食わせて受肉した様に、グモヌシノカミもまた、受肉していることは否定できませぬ。」

「カミが、肉体をもつ…」

 ぞっとする話にフジは戦慄した。神通力や超能力をもつ、神話の神々が肉体をもつとなると…。


「すぐに人員を揃えて風穴に派遣しよう。グモヌシノカミ、討たなくては。」

「フジツチカノカミ様。是非某を…」ウズマは正座から胸に手を置いて言った。

「某を人員に加えて頂きたく。」

「分かっている」

 フジは頷いた。

「鵺殺しのウズマをおいていくほど、私は愚かではない。小太刀の件だが、隕鉄銀の野太刀が一振、家宝と大事に保管してある。それをもっていけ」

「あ、あの、か、家宝の剣を、俺、いや、某に、」

動揺するウズマにフジはニヤリと笑った。鵺程の大物を退治しても根は変わらない。

「毎日何千と生木を打っては野太刀大太刀を扱うのに励む犬豪を、私は知らぬ。名前改めで犬豪ミナモトノウズマサを名乗る日はすぐそこになったと言うことだ。」


「けけけ、犬豪、おとと。」

 ウズマは感激で漏れでた言葉を口元で押さえた。


「ついでに、山賊討伐をしていたシラカワライゴウやナカムラノゲンシンらもつける。これは国家の一大事と受け止めた。」

 ウズマへの言葉と裏腹にフジの憂鬱は深くなっていった。


「私も参ります。」

 キヨアキラが礼をした。

「陰陽師が役にたつのか?」

「鵺退治では、不思議な術で加護を貰い、鵺を討つことが出来ました。」

 ウズマは推薦するつもりか、キヨアキラとフジを交互に見た。

「分かった。討伐隊に加えよう」

「ありがとうございます。」

 キヨアキラは再び礼をする。


 隕鉄銀の野太刀は、刀身が緩やかなカーブを保ち、真っ直ぐな刃波があり、見た目は武骨だが、どこか繊細に磨かれた造りをしている。

 ウズマの運命の一振りであった。


 夜、フジから太刀を貰い受けた後、鞘から抜いて眼を輝かせ、庭で軽く振ってみた。

「軽い…」

 片手で振れそうな程軽く、それでいて木の葉が止まるだけで切れそうな程の鋭さがあった。


 これは持つものを選ぶ危ない太刀だ


 ウズマは、鞘にしまうと息を吐いた。

 妖刀の一振ではないかと思った。

 扱えるか?扱ってみせる!

 心に誓った。

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