第8話 光の街ルミナール

「さあ、ミラ。せっかくですから、買い物を楽しみましょう。街に出るのは初めてだと思うので、私がこの街ルミナールについて紹介していきますね!」


セリスは微笑みながら手を伸ばし、未来を街の中心へと案内した。


「ありがとうございます。ここはルミナールという街なんですね?」


空は青く澄み渡り、穏やかな風が心地よく髪を揺らした。

未来はまだ胸の中に不安を抱えながらも、その風景に目を奪われていた。


「はい。ここはアストリア国の誇る光の街、首都ルミナールです。アストリアは魔法学ともに発展してきたすごい国なんです!」


セリスは手を広げ、街の広がりを指し示した。


街の中心には荘厳な神殿がそびえ立ち、その周りには活気あふれる市場が広がっていた。

魔法の光で灯されたランタンが通りを彩り、そこを行き交う人々が笑顔で挨拶を交わしていた。


「美しい…まるで夢みたい」


ミラ(未来)は呟いた。ルミナールの街は魔法の光で満ちていて、現実の世界では見たこともない風景だった。


だが、その美しさが心を和らげる一方で、異質な環境に身を置く不安が押し寄せてきた。


「ミラ、この街はただ美しいだけではありません。ここでは住む者全てが、自分に与えられた特別なスキルを持っています。アストリア全体では、魔力が高ければ高いほど尊敬されますが、ここ首都ルミナールにはとくにその魔力が高い者たちが集まっているんですよ」


「そうなんですね。ええと、セリスさんは確かヒーラーだから、治癒能力スキルをお持ちなんですよね?」


「はい。そうですね。私は神官なので、メジャーな治癒能力スキルは一通りは使えますよ」


セリスがそうミラに答える間、未来は何とか周囲の人々と視線を合わせないように努めた。


「わあ、ミラ見てください!『星の実』が新鮮ですよ!」


セリスは市場の一角にある果物屋で声を上げた。透明な丸い果実が光を反射して宝石のように輝いている。


未来はその美しさに目を奪われながらも、緊張で口を開くことができなかった。


「こんにちは、セリスさん。今日も来てくれてありがとう!」


果物屋の店主が陽気な声で声をかける。


セリスは笑顔を返しながら果物を選び、未来をちらりと見て安心させるように微笑んだ。


「ミラ、これはとても甘くて美味しいんですよ。ぜひ試してみてください。」


ミラはセリスに促されて、『星の実』を受け取った。


「ありがとうございます…」


と小さな声で呟き、口に含むと、甘く瑞々しい風味が口いっぱいに広がった。


その瞬間、緊張の糸がほんの少しだけほぐれた気がした。


次に訪れた野菜屋では、見たこともない形の青緑色の野菜が並んでいた。


セリスはさりげなくミラをかばうようにして店主と会話し、未来が注目を浴びることがないよう配慮していた。


「ミラさん、大丈夫ですか?まだこの街に慣れずに緊張しているかもしれませんが、少しずつこの街に慣れていけば大丈夫ですよ」


セリスが優しく語りかけると、未来は小さく頷いた。


「ありがとう、セリスさん。本当に助かります」


「ふふっ。何か困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」


セリスのその言葉は、未来にとって小さな希望の光のようだった。


午前中に必要な買い出しを終えた未来とセリスは、賑わう市場から少し離れた小さな洋服屋に立ち寄った。


店内には色とりどりの布地が並び、シンプルなものから装飾の施されたものまで、多種多様な服が吊るされていた。


ミラはその異世界の服装に興味を惹かれながらも、まだ少し緊張していた。


「ミラ!みてください!とても綺麗で素敵ですね!!」


セリスが示したのは、繊細なレースで縁取られた優雅なワンピースのようだった。淡い色合いの生地は光を受けてほのかに輝き、異世界の風情を漂わせている。


「綺麗ですね…でも、もっと動きやすい服のほうが良いかも…」


未来は控えめに意見を述べたが、セリスは優しく微笑んで言った。


「ミラ!!このお洋服、一見ワンピースのように見えますが、よく見ると下はズボンのようになっていて、動きやすいデザインみたいですね。一度、試着してみたらいかがですか?」


「そ、そうでしょうか??」


((ワンピースというか、サロペットに近い感じだよね。))


未来はセリスの言葉に後押しされ、洋服を手に取った。


「ええ。きっとこの優しい色があなたにきっと似合うと思いますよ」


ワンピースを手に取った途端、ミラの後ろから急に洋服屋の店主が現れた。


「え!?いつの間に!?」


「ささ、お客様試着室はこちらですよ!」


店主はミラの背中を押しながら試着室に案内する。

ミラは後ろを振り向いてセリスに助けを求めようとしたが、セリスはニコニコ笑顔で笑いながら手を降っていた。


ミラは乗り気ではなかったがあきらめて店主と試着室に入っていった。

試着室で洋服に袖を通すと、軽くて柔らかい生地が体を包み込み、心地よかった。


「・・・どうですか?」


セリスは試着室から出てきたミラの姿を見ると目を輝かせた。


「とても素敵です!」と声を上げた。


「ありがとうございます…その、本当に似合ってますか?」


未来は照れながら尋ねたが、セリスは迷わず頷いた。


「ええ、とても!そうだこちら、私からのプレゼントとして購入しましょう!ずっと先代のおさがりを着ているなんて、つまらないと思いますし!」


「えっ!いいんです!?」


「はい。それに早くミラにはここ(ルミナール)に慣れてほしいですしね!」


そう言ってセリスは、未来のためにワンピースを購入した。


午後になると、日差しが心地よく、二人は買い出しを終えて自宅へと戻った。

セリスが持っていた荷物を軽く棚に置くと、未来はふと疑問を口にした。


「午後からは何をするんですか?」


セリスは少し考え込んだ後、顔を上げて微笑んだ。


「午後は、あなたにこの街についてもっと知ってもらえたらと思います。新しい環境に慣れるためにも、一緒にのんびり散策でもしましょうか。」


未来の胸が少しだけ高鳴った。初めての異世界で、見たことのないもの、知らないものに触れることはちょっとだけ冒険している気分で楽しみだった。


「いんですか!是非、お願いします」


「そしたら、さっそく先ほど買った服を着て出かけてみません?」


「いいですね!!そうします!」


未来はセリスに買ってもらった新しい服に袖を通し、鏡に映る自分の姿を見て小さく微笑んだ。これから始まる午後の散策に、彼女の心は期待と少しの不安で揺れていた。


_____________________



その日の午後、セリスと未来はルミナールの街をゆっくりと散策していた。


午前中はルミナールの大通りで買い出しをしていたが、午後は、大通りを外れた小さな商店街を歩いていた。


商店街には魔法で動く小さな機械や、魔力で色を変える布を売る店などが立っていた。 市場の賑わいは少し落ち着いて見えて、通りにはゆったりとした時間が流れている。


建物はどれも魔法の光を輝かせた美しい装飾が施されているされ、異世界の雰囲気を一層感じさせる。


「ミラ、こちらの商店街には職人の店が集まっています。木工や宝石、魔法の道具などが売られているんですよ」


セリスが案内する声はどこか誇らしげだった。


「すごいですね。どれも見たことがないものばかりです」


未来は周りの店に並ぶ珍しい商品に目を輝かせた。 特に、魔法の水晶球やきらびやかな宝石に彼女は興味を抱いていた。


ミラは初めての街の風景に少しずつ慣れてきて、自分が異世界に居ることを悟りながらも、以前よりこの世界に対する不安は薄らいでいた。


その時、通りの端にある小さな雑貨店に目が留まった。


「セリスさん、あそこは何のお店なんですか?」


「ここの道具店はとても珍しい魔法具や薬草などを売っていて有名なんですよ。先代の師匠もよくここで珍しい薬草を買っていました。ちょっと寄ってみましょう!」


店先で丁寧に接客をしている若い男性の姿が見える。彼は笑顔で店内のお客様たちとお話をしていた。

セリスとミラがお店に入店すると、彼がこちらに気が付いて寄ってくる。


「こんにちは、何かお探しですか?」


男性が気づいて声をかけてきた。見たところ彼は人間の商人で、ここの店主らしかった。


「少し見させてもらっています。珍しいものが多いですね。こちらは何ですか?」


ミラは少し緊張しつつも言葉を返した。男性は微笑みながら、手前に置いている商品を紹介し始めまた。


「これは魔法で温度を調整できるカップです。寒い冬でも飲み物がずっと温かい状態で飲めるすぐれものなんです。今年に入って、開発された商品でして日用品やちょっとしたプレゼントとして人気なんです。そしてこちは…」


話が進む中、店の奥から突然、女性の叫び声が響いた。


その女性の声は痛みに満たされており、店内の空気が一瞬で張り詰めたものに変わった。


ミラとセリスが驚いて顔を見合わせると、男性商人は顔色を変えて店の奥へと進みました。


「ごめんなさい、私の妻だ!!失礼します!」


彼はミラにそう伝えると、急いで店内の奥に駆け込んだ。その場にいた人々は何事かとざわつき始めていた。


「ミラ。なんだか様子が変です。一度見に行って、助けにいきましょう」


セリスはミラにそう声をかけて、男性商人の後を追いかけた。


「うぅ・・・。痛い!!・・・・うっ」


奥で女性が苦しむ声を聞いて、緊張感が一斉に押し寄せてきた。


ミラの心臓が急に早鐘を打ち始めた。


「この声とこの雰囲気・・・もしかして!?」

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