第6話 新たな朝、新たな始まり
翌朝、未来は自然と目が覚めた。
周囲を見渡すと、柔らかな日差しが小さな窓から差し込んでいて、部屋の中を柔らかく照らしていた。
ベッドは驚くほど快適で、昨晩の疲れが和らいでいた。
ベッドサイドテーブルには、セリスが置いてくれたと思われる、薬草の香りが漂う小さなアロマポットがあり、その香りが心を落ち着かせてくれる。
未来はベッドから少し体を起こし、部屋を見渡した。
部屋の 壁には薬草の束が乾燥させられて吊るされ、棚には瓶詰めの薬や、巻物が整然と並んでいる。
一人暮らし用の寝室というよりは、薬草づくりのための研究室という雰囲気が適切だった。
部屋全体がまるで薬草づくりのための研究室のようで、セリスが「ヒーラー」であることを感じさせた。
((ここは・・・そっか。私、昨日の夜勤のあと、帰宅中に倒れて・・・どういうわけか異世界にやって来ちゃったんだよね・・・?))
「おはようございます、よく眠れましたか?」
未来がぼんやりと思い出していると、穏やかな声が部屋に響いた。
振り向くと、セリスがカーテンを少し開けながら微笑んで立っていた。
その声は朝の光と同じようにゆっくり、自然と心が落ち着くようだった。 未来が目覚める前から、どうやらセリスはこの部屋にいたらしい。
「おはようございます。昨夜は本当にありがとうございました。お陰様でだいぶ休めました」
未来は軽く下げました。
「まぁそれはよかったです。昨日はまる一日眠り続けてましたから、とても心配したのですよ。まだ少し顔色が悪いので、今日は無理をせずゆっくりしてください。
あ・・・それからお腹は空いていませんか?」
セリスが微笑みながら言葉を返した。
未来は、少し考えた後、セリスに尋ねる。
「えっと・・・わたし昨日1日中起きないで、ここで寝てたんですか??」
「えぇ。まぁ・・・。」
「全く起きずにずっと??」
「はい。とても心地よさそうに眠られていました。何度も声をかけたりしたのですよ」
セリスは少し笑いながら答える。
「えっと、私が寝ている間、何か変な寝言を言ったりしてましたか?」
「いえ?ただよく眠っていた様で、何度も声をかけたり、揺さぶってみたりしましたが、びくともしなかったので驚きました。相当お疲れだったんですね。ここに来る前は、もしかして寝不足だったのですか?」
((そっか…久しぶりに熟睡できたんだ・・・))
未来はふっと笑って、少し照れくさそうに答えた。
「えっと・・・・まぁ。徹夜みたいな感じで、ずっと働きつづけてたので」
「・・・・徹夜?何故寝ずにずっと働く必要があるのですか?夜になったら皆眠るのが当たり前ですよ?」
セリスが不思議そうに首をかしげた。
セリスの純粋な疑問に、未来は一瞬どう考えるべきか迷った。
((そうですよね・・・普通ならそうなんですけど。病院で働く医療従事者は夜勤があるから、夜も働くんです。でも、異世界のセリスさんにそれを説明しても、わかるかどうか…))
なんてセリスに説明すれば良いか考えていると、セリスが微笑みながら言葉を続けた。
「では、朝食をご用意しますね。私の手作りで簡単なものですが、少々お待ちくださいね。」
セリスはそう言うと、部屋の外に向かって歩いていった。
未来はセリスが少し先遠ざかるのを感じながら、ベッドに腰掛けた。
異世界の朝。そして、ただ常識朝食をただ待っていても、なんとなく居心地が悪い感じがしてどうしてもソワソワしてしまう。
((少しだけ様子を見に行っても良いかな…?))
未来は立ち上がり、部屋のドアのほうへと足を向けた。
たしか、セリスは部屋を出て、右に向かっていったはずだ。
部屋を出た廊下の右奥から香ばしい香りが鼻をくすぐるため、その香りの道をたどるように進んでいくと、小さなキッチンにたどり着いていた。
そこには手際よく調理をしているセリスの姿があった。
「あら?キッチンまで来ていただけるとは驚きました。もう少し休んでいても良かったのですよ」
セリスはにっこりと微笑みながら、青緑色の葉を刻んでいる。
「すみません、なんだか待っているだけなのが落ち着かなくて…見たことのないものがたくさんあるんですね」
「ふふふ、気になりますか?」
セリスは手元の野菜をもち上げて、異世界の食材の説明をし始めた。
「これは『オルベン草』といって、体の滋養にとても良いんですよ」
「オルベン草…」
未来は不思議な色合いをした葉を眺めながら、手元にある材料の一つに見入っていた。
その横でセリスは軽い火を起こし、鍋に湯を張ってゆっくりと温める。
「そして、これは『星の実』です。朝に摂ると、心がすっきりと落ち着いて、体が軽くなると言われているんですよ。」
未来はその名前に興味を惹かれた。 透き通った果実が、ほんのりと淡い光を放っているようにも見える。 異世界の自然の力が詰まったような不思議な輝きだ。
「星の実…なんだか幻想的な名前ですね」
セリスはうなずき、鍋に星の実を少しずつ入れながら調理を続けた。
セリスは丁寧に水を加えて野菜のスープを作り始める。スープの水は、精霊の祝福を受けているらしく、かすかに銀色の輝きが混ざって見え、未来の興味をそそった。
オルベン草の葉が柔らかくなると独特の風味が立ち上り、さわやかな香りが部屋全体に広がっていく。
「このスープはルミナールの街のソウルフードのひとつなんです。」
セリスは穏やかな笑みを浮かべながら、優しくこう言いました。
それからセリスは穀物を別の食品棚から取り出し、薄いパンのように平らにして焼き始める。木の実の粉を混ぜた生地のようで、焼きあがると香ばしい香りが漂う。
パンの表面はほのかに金色に焼け、素朴な美味しさが匂いとして部屋全体に漂う。
仕上げに、星の果実の果汁を少し絞って甘みを加え、セリスは満足そうに微笑んだ。
「できましたよ、どうぞ召し上がってくださいね。」
セリスは未来をダイニングテーブルへ案内しながら、テーブルにスープとパンを並べた。
「い、いただきます」
二人が席に着くと、未来はスープの温かさと香りに包まれながら、一口スープを飲んでみる。
豊かな風味と優しい甘さが口の中に広がり、まるで体の隅々まで癒されるような気持ちになる。
「・・・どうですか?」
セリスが尋ねると、みくるは頷きながら微笑んで答える。
「とても美味しいです!体も心も温まるような感じがします。」
「それはよかったです。この土地では自然の恵みを大切にしています。特にヒーラーにとって、植物や果実の持つ力を知ることはとても重要なんですよ。」
セリスは笑顔でそう言いながら、自身もスープを一口含みました。
「まだ私は異世界に来たことが信じられないんですけど、こうしてセリスさんと話しながら朝食をとっていると、なんだかその、少しずつ…この世界に馴染んでいけるような気がしてきました。」
未来の言葉に、セリスは微笑んで頷く。
「きっと、この世界であなたが経験するすべてが何かの力になっていくはずです。
…このスープを美味しいと感じたあなたなら大丈夫な気がします」
セリスの言葉を聞きながら、未来はスープを口に運び、異世界での一日が静かに始まっていくのを感じた。
「では、私は今から必要な買い出しに行ってきます。よかったらここで自由にのんびり過ごされていてくださいね。」
セリスは優しい笑顔を浮かべながら、さりげなく出かける準備を始めた。
未来は一瞬その言葉に戸惑いを覚えた。
この異世界で、しかも他人の家で一人きりになって過ごすことにどうしていいか少し不安だったからだ。
それに見知らぬ空間で勝手にのんびり羽を伸ばすのも気が引けて、何をしていいのかもよくわからなかった。
ふと、薄暗い角や薬草の束が吊るされた棚を見回すと、心にじわりとした寂しさが押し寄せてくる。
この異世界の知らない家で、何もかもが不確かな状況で一人きり…。
その思いが不安を募らせていった。
「セリスさん…」
みくるは少し勇気を出して口を開いた。
「私も、もしよかったら、買い出しに一緒について行ってもいいですか?
泊めていただいたのに何もお手伝いできないのも申し訳なくて…。
それに、荷物とかあるかもしれませんし、少しでもお役に立てたらと思うんです。」
セリスは少し驚いたように目を見開きましたが、すぐに穏やかな表情に戻り、嬉しそうに微笑みました。
「まあ、そう言っていただけるなんて嬉しいです!では一緒に行きましょう。
ただ…今の服装だと少し目立ってしまうかもしれませんね。
私の服をお貸ししますから、少しお待ちくださいね。」
そう言って、セリスは自分の部屋に向かい、服を取りに行った。
未来はホッとするとともに、ほんの少しこの街を買い出しついでに探検できることに楽しみを感じていた。
「すみません、ちょっと、私の部屋にきて貰いませんか?」
セリスが戻ってきて、未来の手をつかむ。
未来はセリスの自室へ案内され、部屋の中へと入っていった。
「私がもっている私服の中でもきれいなものを取り出してみたんですが、私の服があなたのサイズに合うか確認したいので!ちょっとこの鏡の前に立ってみてください」
未来は、セリスに誘導されて全身鏡に映った自分を見つめた。
「ん?」
鏡に映った自分を見つめようとするが、どうも鏡に自分が映っていないようだった。
「えーと、これって本当に鏡ですか?」
未来はセリスに尋ねる。
「ふふふ、まだ寝ぼけていらっしゃるんですか?しっかりあなたの姿を映し出してるでしょう?」
鏡の中には、未来が知っている自分の姿はなく、別人が映っていた。
「え?!これが、わたし??」
未来は異世界での自分の姿に驚愕した。
みるく【もしあなたが異世界で生まれたら】 みるく @milk_novel
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