第3話『ハンバーガーの味』

ピンチを助けられたと思ったら神様でした。


「神様……なんでココに?」

「だからぁ、今のボクはガブリエルだって言ってるだろ?」


相変わらず楽しそうな笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくる。


「もしかして俺を追ってきてくれたの?」

「ち、違うよ。よくよく考えたらキミ、無一文な上、身分証もないし魔法の扱い方も知らなければ、この世界の事をなーんにも知らない。だからこのボクがわざわざ、そんなアンポンタンのためにきてやったのさ」


感謝しろよ、と言わんばかりの視線で見てくるガブリエルに、俺は深く感謝する。


「ありがとう!こんなアンポンタンな俺のためにわざわざ来てくれて。君は本当に優しくて素敵だね!」

「あ……いや、アンポンタンというのはほんの冗談だったんだけど……」


気まずげに視線を逸らすガブリエル。

俺たちは道のりに沿って歩きながら色々な事を話した。

ガブリエル(以下ガブ)は上司である神々に頼み込み5年間の休暇を貰ったらしい。ちなみに、天界だと時が止まっているらしいから地上での5年間だ。


「そう言えば、なんでこんなに強いの?」

「ボクは剣神だよ?スライムを倒すくらい訳ないさ」

「へぇー、凄い!」


歩いてから3時間ほど経っただろうか。

途中、道に生えている薬草や花を摘んだり、ガブが魔物を倒したりと色々あったが、無事に街の城壁が見えてきた。ガブ曰く、モンスターが入り込まないように設置されているだけで、人間は安易に入れるんだとか。それ、城壁の意味無くない?


門を潜ると、煉瓦で造られた家々が俺たちを出迎えた。桜が満開に咲き誇り、ふわりふわりと花びらが道路に落ちる。


「ここは桜舞う街、サクラタウンさ」

「異世界にも桜があるんだね」

「この世界は地球によく似た生態系をしているからね」

「まずはどこ行く?定番だとギルドかな?」

「冒険者組合ね。場所は知っているから案内するよ」


俺は路上に出る屋台から香る串焼きの匂いの誘惑に耐えながら冒険者組合に向かった。

冒険者組合の中に入ると、喧騒と熱気が押し寄せてきた。木造りのテーブルと椅子が並んでいる。冒険者たちは料理に舌鼓を打っている。荒くれっぽい格好をした人もいれば、魔法使いのローブのような格好をした人も居て、まちまちだ。


俺たちは真っ直ぐに受付に向かう。

受付には『セリカ』と書かれたカードを首からぶら下げた女の人が据わっていた。

金髪をサイドテールに結いあげ、キッと釣り上がった眦。


「冒険者組合にようこそ。本日はどのようなご用心で?」

「冒険者登録がしたいんですけど」

「冒険者登録ですか。五千リリー頂戴致しますね」


…………え?金かかるの?いや、当然か。

チラリとガブを見ると、彼は言った。


「キミ、確か薬草とか花とか摘んでたよね?あれを売ればお金になるよ」

「はぁーーーー!?いやいや、アレはポーション作りに役立つかなと思って持ってきたやつであって、売る用では……!」

「そんな事いってる暇ないでしょ……ホラ、出したよ」

「ウッ………」


ほろりと涙を流すと、渋々薬草と花を懐からだそう……として、手が止まる。


「うう………うう………」

「そんなに嫌なのか……仕方ないな。ボクが倒した魔物の素材を売るよ」

「ありがとうございます」


こうして、二万リリーを受け取った。

それで冒険者登録をする。

冒険者組合や依頼についてセリカさんが説明してくれた。


「冒険者組合は世界の様々な場所に存在します。登録さえすれば各地の組合から依頼を受ける事ができます。依頼はクエストボードに貼られているので自由に見てくださいね。依頼達成後に報酬をお支払いします。

組合の建物内にはキッチンや工房などが設置されています。それらはタダでお貸しする事ができますが、他の人も居るので綺麗に、マナーを守ってご使用ください。

では、ギルドカードをつくるのでこの針で指を刺し、血を一滴垂らしてください」


セリカさんは針を渡し言った。

言われるがまま、針を指に刺すと血が一滴、ぽたりとカードの上に垂れた。すぐに浸透して消えると、欄に文字が浮かび上がった。


凄い……これも魔法の力か?

俺が感嘆していると、カードの発行が終わった。

返ってきたカードの内容をマジマジと見る。


「おっ、ガブのおかげで全属性使えるようになってる……それに【鑑定スキル】も……身体能力は貧弱だな」


ガブのカードも確認すると剣術レベルがSSランク、身体能力も総じて飛び抜けていた。ちなみに魔力はゼロと表示されていた。


俺たちはお腹が空いたので腹ごしらえをする事にした。いつのまにか時計の針は五時を上回っている。椅子に腰掛けると、テーブルに置いてあったメニューを見た。

唐揚げ、ポテト、ハンバーグ、チキンなどジャンクなものが目立つ。その他にはサラダ、ポタージュ、海鮮スープなど。


「決めた!俺チーズハンバーグにライ麦パン、トマトサラダな。ガブは?」


ガブは悩ましげな表情でメニューと睨めっこしていた。どうしたのかと聞くと、ガブは天界に居たから食事をした事ないらしい。


「じゃあ、俺と同じやつにしたら?とっておきの食べ方、教えてあげるよ!」

「とっておきの食べ方……?」


不思議そうな顔をしつつもガブは俺と同じメニューを注文した。暫く、雑談しながら来るのを待つ。


「明日は錬金魔法の使い方が知りたいな」

「じゃあ図書館にいくかい?そこだったら、錬金魔法の扱い方からポーションの作り方まで色々あるよ」


そんな会話をしていると、香しい匂いと共に料理が来た。ウェイトレスの少女がチーズハンバーグとライ麦パン、サラダをテーブルに並べていく。


「いっただきまーす!」

「………いただきます」


俺は元気よく、ガブは少し戸惑い気味に言う。

さっそく、ナイフとフォークを使ってハンバーグを切り分けると、とろりとしたチーズが溢れ出した。


「ガブ!見てろよ〜?」

「………?」


首を傾げるガブの前で切り分けたハンバーグとトマトをパンに挟んだ。そして思い切りかぶりつく。

口内で肉汁が溢れ出し、トマトの瑞々しさ、チーズの濃厚さが旨みをつくりだす。

ガブが驚愕の顔で見ていた。


「これはっ……もしや伝説の"ハンバーガー"というやつ!?実際に存在していたのか!?」

「大袈裟な奴だなぁ。ホラ、ガブも食べてみろよ」


慎重にハンバーグを切り分け、トマトと一緒にパンに挟み、小さな口でかぶりつく。


「お、おいしぃ〜〜………」


ほわほわほわ〜とガブから幸せオーラが溢れ出す。俺は「だろ?」と笑う。


異世界生活一日目はハンバーガーを食べたという事で終了した。

宿屋で二人部屋を取り、寝る準備をする。


「明日はものづくりしたいなぁ。俺は街に来る途中で摘んだ薬草と花が大量にあるから、ある程度の物はつくれるかもな」

「鑑定スキルで見てみたら?魔法と違って、スキルは意識すれば簡単にできるよ」

「やりたい事がありすぎるなー」


そう言って笑い、ぼそりと呟いた。


「本当に、この世界に連れてきてくれてありがとうな。感謝してもしきれないよ」

「お礼をいうくらいならものづくりで返してよ。前にもいったでしょ、ボクは君に期待してるんだって。それに………」


小さな声でガブはつぶやいた。


「天界でつまらない生活を送っていたボクを連れ出してくれたのは悠介だ。ボクの方こそ、礼を………」

「ごめん!全然聞こえなかった!」


無言でバシバシ叩かれた。痛すぎる。

こうして、俺たちは眠りについたのだった。

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ジョブは万能錬金魔道士です! 帯刀しぐれ @ranmaruz

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