第103話 午後の探査、略して午後タン

「うん、満足! こうしてものを腹に詰め込む快楽を味わえるのは、端末ならではだね。じゃあね、アドミニストレータ。僕を僕として扱ってくれる、優しい人」

 

 大した時間もかけずに、どこにそんなに入るんだというくらいの量の飯を、華奢な体に詰め込んで端末くんちゃんはさっさと帰っていった。

 探査者でもないだろうにあいつ、無銭飲食同然じゃないか……言ってることもやってることも無茶苦茶だ。怖ぁ。

 

『……行きましたね? ふう、まさかリーベちゃんまで認識しているとは。さすがに一筋縄ではいきませんねー』

 

 お、リーベの声。端末くんちゃんに応答されてからずっと黙ってたが、いなくなったらさすがに声も出すか。

 

『そりゃそうですよー……でもまさか、ここまで懐に潜られるなんて。気配感知も効果がなかったなんて、想定外もいいとこですよー』

 

 まあたしかに、こんなとこであの子と会うとは思いもしなかった。もっと言うとあんな量を普通に食い切ったのも、やたら食い方が汚らしかったのも意外だ。

 完全に勝者の余裕を見せ付けてる風だったのもな。

 

『予想はできてましたが、完全に舐めてますね……まあ、そうでなくては本当に勝ち目がないのでありがたいですが。こちらの切札のこと、知らないみたいですし』

 

 切札──決戦スキル、か。やつの本体を大幅に弱体化させる四つのスキル。アドミニストレータたる俺を補佐する、邪悪なる思念本体と戦うための一つのスイッチ。

 向こうさん、あちこちうろつけるのに何の情報も知らないみたいなんだな。余裕綽々だったけど、そのくらいの差があるのか?

 

『……悔しいですけど、通常の手段ではまず勝てません。そのための決戦スキルなんですよ。他にも、ええ。今あるこの世界の様相そのものが、少しでもやつの力を削ぐためのものでもあります。大して効いてないのが腹立たしいですが』

 

 詳しくはやはり、リーベちゃんが顕現した時に言いますよー、と。

 そんなことを言って、リーベの気配は頭から消えた。まったくこの手の話になると秘密主義になるな、もう。

 

 ま、四の五の行っても仕方なし。経験値5倍効果も得たし、存外早くレベル300まで行くだろう。

 その時に聞いてやろうじゃないか。この時代の謎、世界の裏側──システムさんの正体と思惑についても。邪悪なる思念のことについても。

 決心し、俺も食事を終えた。

 

 午後からはまた、別のグループを組む。午前に組んでいた三人はなんか、別の用事があるみたいで姿を見なかったが……まあ良いや、とにかく俺は俺で新しくパーティを組んだ。

 男性探査者三人だ。年齢もおじさん、年上、同年代とバラけている。

 

「C級の新田だ、よろしく。レベルは105、戦闘スタイルは弓を使っての遠距離アタッカー。歳は41、探査者歴は3年だ」

 

 角刈りの、何故か作業着に身を包んだおじさん、新田さん。どうしてなのか聞いてみたらこの人、三年前まで建築現場で作業員をされていたとのことで、そこから突然スキルが生まれて探査者になったという経歴があった。

 本人としては出世間近だった業界から離れるのがあまりに惜しかったらしく、名残のようなものだと作業着を引っ張って笑っていた。辛ぁ……

 

「D級、掛村です。よろしくおねがいします。レベルは75でスタイルは、剣を使った近距離アタックです。歳は、31です。探査者歴は、8年です」

 

 前髪を目元まで伸ばした、優しいというよりは気弱な印象を与えてくる青年、掛村さん。こちらは至って普通の私服で、自然体といった様子だ。

 8年か……それでD級? 事情を聞くと、何でも彼は元々内勤組だったのだが、3年前、ダンジョンから抜け出たモンスターに人が襲われるという場面に遭遇したのだとか。

そしてそのモンスターを単独で倒した結果、それをきっかけに実力者として認知されてしまい、外勤にも参加することが増えたらしい。

 

 本人的には嫌みたいなのだが、彼にゾッコンの後輩探査者が複数名、猛烈にアタックするのに流されたとのこと。

 このツアーにも来ている、女子大生くらいの女の子たちだ。遠くから掛村さんを見て、投げキッスを投げてきている。それを受けて困りながらも手を振る彼。何だこの主人公。

 

「こないだE級になりました、奈良っす! レベルは42、戦闘スタイルはオールレンジ、近距離ならナイフで遠距離なら《投擲》スキルを使っての攻撃でオールレンジ対応しまっす! 歳は20、探査者歴1年っす、よろしく!」

 

 いかにも熱血漢って感じの好青年、奈良さん。俺と似たようなタイミングで探査者になったらしい、ほとんど同期みたいな人だな。

 にしてもオールレンジか。《投擲》スキルは投げれば何でも武器になるという、かなり強力でレアなスキルだ。レベルさえ上がればそれだけで上級だって目指せそうだな。

 

 最後に俺か。自己紹介する。

 

「E級の山形です。戦闘スタイルは素手で基本、一人で探査してます。近距離はもちろん、飛び技もあります。レベルは143、探査者歴、えーと……1ヶ月です」

「1ヶ月!? レベル143が!?」

「ていうかF級じゃないんだね……特例で昇級したって噂、本当だったのか」

「あの御堂香苗の弟子とも、愛人とも聞くし。何ともヤバいのと組んだよなぁ俺も」

 

 ああっ、新田さんと掛村さんが引いている!

 それもそうだよ、俺めちゃくちゃなんだ! 普通は一年経たないと昇級できないのに一月でE級だし、レベルだってもうC級上位からB級下位くらいの段階だし。

 ていうか香苗さんの弟子はともかく愛人はやめろ! 捕まっちゃうだろ香苗さんが!

 

「シャイニング山形、動画で見たぜ! 人を護る熱い光、俺のハートにガツンと来た! 正直俺じゃあ足手まといになっちまうけど、よろしくな!」

「あ……いえ、そんな! こちらこそ、普段ソロ探査なのでご迷惑をおかけしてしまいます。すみません」

「気にすんなって! 人々の平和を守る為! 愛と地球を救う為! 絆の力で頑張ろうぜ、みんなぁ!!」

「お、おう……若えの、元気だな」

「フレッシュですね……まあ、よろしく」

 

 奈良さんは奈良さんで、やたら燃えてるし。他二人が反比例して冷めてるし。

 凸凹感溢れるパーティで、ともかく俺たちは午後の探査に乗り出した。

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