第104話 男所帯の方がむしろ居心地良いことってあるよね

 午後からのダンジョンは、無難と言えば良いのだろうかE級の、階層も部屋数も少ないものだった。

 ただ、組合施設から遠く離れてローカル電鉄の端っこの駅、山の麓にあるため移動にこそ時間がかかっていた。

 

 となると電車に乗るし、電車に乗ったら暇だから、話に花を咲かせるわけだが。

 何というか、普通の探査者さんなら誰もが気になってるんだろうなあってことを、結構深く聞かれている。

 

「あー、山形くんは御堂さんとは実際、どんな関係なんだ? どこでも噂になってるし例のチャンネルもあるし、機会があったら聞いときたかったんだ」

「えー……と、まあ、あのチャンネルで受けた印象通りなのかなと。彼女にとっては俺は救世主で、自分はそれをみんなに伝える伝道師、らしいです」

「……A級トップランカーが、カルト宗教の教祖になるかぁ」

 

 しみじみと、世の無常を嘆くかのように新田さんが呟く。隣で掛村さんもどこか、遠い目をして窓から外を眺める。

 言ってしまえば自分たちの頂点、に近い人がそんなことになってるんだ。嘆く気持ちも遠い目になる気持ちもよく分かるよ。原因俺で申し訳ないけど。

 

「D級の望月宥さんもだよな! 俺ファンなんだよ! 最近の動画、正直何言ってっかわかんねーけど、救ってくれた山形にのめり込むのはしょうがないよな!」

「のめり込んでほしくて助けたわけじゃ、もちろんないんですけどね……助けられたことは、俺の誇りですけど」

「おう! 見返りなんて求めねえ、救いの手は求める人に差し伸べる! ヒーローだぜ、シャイニング山形!」

 

 一方で奈良さんは暑い。熱くて暑い。ものすごく熱血というか、ヒーロー的なのが好きなんだな。

 俺のシャイニング山形をずいぶん気に入ってくれているみたいで、そこは照れくさくもありがたい。そういう気質だからか、当然、探査者はダンジョンから人を護るものだって意識も強くて親近感が湧く。

 

「山形くんは、ソロ専門だったね……パーティ戦、午前にやってみてどうだった?」

「あ、はい……組んでくださった方々のおかげで、少しはやり方や考え方、動き方を学べました」

「そっか。まあ、無理はしないでほしい。いざとなれば君だけ単独で動く、くらいにしておけば、たぶん最悪はないはずだ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 至って冷静、というか仕事のことを第一に考えているようなのが、掛村さんだ。この人は何というか淡々としていて、温度がないから俺にはむしろ合うかもしれない。

 元々内勤組だったのが、押しに負けて探査をし始めたとのことだし、早い話が熱意がないのかもな。

 それでもこうして仕事に関して気にはかけているんなら、やるべきことはきっちりやるタイプなんだろう。それならそれで、人の気持ちにとやかく言うつもりはないし、嫌々でも構わないかなとは個人的に思う。

 

 そんな感じでそれなりに話し、多少は打ち解けたあたりで電車はダンジョンの、最寄り駅に到着した。

 木々生い茂る、静かな山の麓だ。緑豊かとはこのことだろう、マイナスイオン〜って感じがする。

 

 さてそこからしばらく、大体30分ほど歩くと山門が見えてくる。資料によれば、そこから小路にそれてさらに進むと……あった。

 静謐な森、腐葉土が広がる中でぽっかりと大穴だ。神社ダンジョンほど迷惑じゃないが、たとえば道に迷った人なんかが足を踏み外して中に入っちゃったりしたら大変だ。

 さっさと踏破して、消し去っていかないとな。

 

「さぁて、やりますか。フォーメーションは?」

「山形くん、奈良くんが前で僕と新田さんが後ろ。それで良いでしょう……E級ですから連携というほどでもないかとは思いますが、ツアーの意義の一つでもありますし、多少は意識しましょう」

「あいよ。ま、山形くんの腕前も見てみたいしな。良いかね二人とも?」

 

 それぞれ武器を取り出して用意する。新田さんが確認すれば、掛村さんが淡々と応える。

 熟れたやり取りだ。事前のフォーメーションの相談から提案、了承まで実に無駄がない。探査者歴によらない年の功、とでも言うべきかな。実にスマートだ。

 そして当然、二人だけで決める話でもないから俺と奈良さんにも振ってくる。ああ、新人二人に流れを見せる目的もあるのか。なるほど。

 

「オッケーっす! ぶっちゃけシャイニング一人で余裕かもっすけどね、こんなダンジョン!」

「いえ、まさか。ダンジョンはどんなものでも危険ですよ……頼りにさせていただきます」

「任せな! 今回のダンジョンは、みんなでヒーローだぜ!」

 

 熱く叫び、熱く笑って奈良さんは先陣を切った。大股でずんずんとダンジョンへ向かうのを、遅れないようにあとの三人が追う。

 何とも強気な人だなぁ。後ろでは新田さんも掛村さんも、やれやれと笑っていた。

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