第2話 はじめてのダンジョン
今回の最終試験、合格はもちろんダンジョン踏破だ。
ダンジョンの最奥にはダンジョンコアなる宝石があり、それを手に入れることで踏破、つまりは攻略が認められる。
そんでそのコアってのが地面に置いとくとまた、ダンジョンを再生成して再利用できる性質を持つもんだから、コアを手にした探査者は一旦それを組合に預けた後、引き取ってテーマパークとか別荘とか、秘密基地にして遊んでいるらしい。
そうでなくとも危険度の低いコアなんかは探査者内限定のオークションで競り合ったりして、高値でやり取りされているのだとか。
なんとも夢のある話だね、まったく。
「ぴきー!」
「! で、出たモンスター!」
と、奇声とともに何やら現れたるは、人間ほどの大きさのひとかたまりのゼリー。興奮しているのか、小刻みにぷるぷる震えている。
出ましたよモンスター。ダンジョンには付き物の生息物であり探査者の永遠の敵、ある意味花形だ。
ダンジョンそのものが生成しているらしいこいつらは倒しても倒しても絶滅することがない。唯一、ダンジョンを踏破することだけがその洞窟からモンスターを消滅させる手段なのだそうだ。
ちなみにダンジョンを踏破してコアを得、所有権を手にした探査者の中にはあえてモンスターを残している人も少なくない。
戦闘訓練用にしたり、動物園みたく見世物にしたりと、各々の用途を見出しているそうだ。
まあ、たとえば俺がコアを得たらまず、モンスターを消すと思うんだけどね。リスクはないほうが良いに決まっているんだ、うん。
「ぴき、ぴきー」
「っと……さて、やりますか!」
考えに耽っていても仕方ない。俺は組合支給の鉄剣を構えた。
やたら重い……が、いざ戦うぞとなった途端、信じられないくらい軽くなった。何なら体も、その場で月面宙返りも余裕でできちゃいそうなくらい、羽毛みたいに軽い。
そのくせ力はやけに漲るのだから、これはあのスキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》が発動しているのだなと、思考力にまでブーストがかかっているのか異様に冷静な頭で俺は、スライムにそのまま斬り掛かった。
「ぬぅん!」
「ぴきき!?」
俺自身は平均的な体格、身体能力だがそれでも10倍ともなれば中々の怪力だ。
力任せにスライムを叩き潰すことくらいはわけなかったようで、教育で教わった、刃を当て引き切る基本はどちらかと言えばおざなりな一刀両断と相成った。
というか、なんかしっくり来ないな。
なんだろう、剣がうまく扱えない予感がある。どんなに熟達しても、使いこなすところまではいけなさそうな気配があるのだ。
とは言え今は監督官付き、組合からもらった武器にケチ付けるのもちょっと、挑戦的すぎるだろう。
抱いた違和感はそのままにして、俺はぶった切ったスライムがまだ、何かしてこないか警戒した。
「ぴきー……」
分かたれたスライムは、アメーバよろしく再生することはなかった。粒子となって磨り減っていき、やがては影も形もなくなったのだ。
ダンジョン由来だからか、ダンジョンに帰るということなのだろう。探査途中で力尽きた人間はご丁寧に何もかもそのままと話を聞くので、死んだからってダンジョンに取り込まれることはないんだろう。
「よし。じゃあ、進むか」
モンスターを倒したのだから、この場に留まっていても仕方がない。俺は3つある部屋の、2つ目に向けて進んだ。
戦うことに一定の自信というか、見込みを自分自身、得られた感じがする。よくあるらしい、いざ実戦となると尻込みするって話も俺にはなかった。
人型のモンスターが出た時かな、次の問題は。
人間とほぼ変わらない姿を殺せるかどうか。そこが探査者としての決定的な一線らしく、ここで心折れてサポート専門の内勤探査者に進路を変える者も少なくない。
内勤も憧れはするんだけどね。いかんせん俺はスキルがあまりにも戦闘向け、かつ自己完結してるから。
何が何でもダンジョンには潜ってもらうとでも言わんばかりだ。まあ、やってみましょうかね。
「げぎょぎょぎょぎょ!」
「はい出たよっこいしょー!」
「げぎゃー!」
2つ目の部屋に入った途端、斬り掛かってくる緑の人型。
見ようによっては愛嬌があるのかもしれない、ブサイクな化物。ゴブリンと呼ばれる、どこのダンジョンにも何らかの派生形が見られるミスターダンジョンみたいなモンスターだ。
にしてもいきなり来るのか。覚悟とか色々すっとばして体を動かし、攻撃を避けて頭をかち割る。
また力任せだ。どうも理屈通りに体が動かない……不慣れなのはもちろんあるんだろうけど、やっぱり剣を振るう動作にしっくり感がない。
なんだろう? 帰ったらちょっと考えないとな。
ともあれ頭からぱっかーんと割ったゴブリンは、断末魔をあげてそれきり、粒子となってダンジョンの露と消えた。
「よし、じゃあ進むかなあ」
「……」
気配の何もない部屋、もう進んでもいいだろう。
監督官がやけにこちらを凝視しているのを背中で感じながら、俺はこの、初心者ダンジョンの最奥へと向かった。
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