攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─

てんたくろー/天鐸龍

第1話 俺は新米探査者

 唐突な話だがこの俺、山形公平は覚醒した。

 中学の卒業式のまさにその夜、頭の中に声が響いたのだ。

 

 

『あなたはスキルを獲得しました』

『それに伴いダンジョンへの入場および攻略が可能になりました』

『system《ステータス》機能の解放を承認。以後、あなたは自分のステータスを確認できます』

 

 

 おおお!? と、盛大に騒いで家族にどうしたどうしたと慌てられたのはご愛嬌。

 100年前、世界中に無数に発生した洞窟、通称ダンジョン。未知なる価値と発見が今なお明かされることなく眠っているとされるそうしたダンジョンには、スキルとかいう特別な能力を持った人間しか入場ができない。

 そんな現代、大ダンジョン時代と呼ばれる昨今にあって突然だがスキルが芽生えたのだ。そりゃあ騒ぐし家族だって驚いて心配するやら興奮するやらだよな。

 まあ、とにかくもこうして俺は、思春期特有の全能感からくる妄想とかではない、本当の覚醒を果たしたのである。

 

「《ステータス》」

 

 

 名前 山形公平 レベル1

 称号 まだ誰でもないあなた

 解放済みスキル

 名称 風さえ吹かない荒野を行くよ

 

 

 で、これが俺のステータスだ。思ってたより簡素というか、各能力値を数字化とかじゃないんだ? とか率直に感じる。

 まあでも、ここが優れていてここが劣っている、なんて数字として見たいわけでもないのでこれでも良いかなって思う。そも、ダンジョン調査業者こと通称『探査者』の最大の武器は知恵と勇気とスキル、特にスキルだ。

 それさえ分かれば良いわけ。あと称号も、地味に実力を底上げしてくれるってこないだ、探査者組合で受けた新規探査者教育で聞いた。

 ならばスキル、称号の仔細はどうなっているんだろう? 眼前に浮かぶ、当人にしか見えない半透明のステータス──なんとタッチパネルだ、人前で操作してるとパントマイムみたいだねって妹に言われた──の、スキルと称号をタッチして説明表示する。

 

 

 スキル

 名称 風さえ吹かない荒野を行くよ

 解説 誇り高くも野獣のように。風にはあなたがなるのです。

 効果 一人で戦う時、全能力が10倍になる

 

 

 称号 まだ誰でもないあなた

 解説 誰になるのかは、あなたの歩みが示すのでしょう。

 効果 なし

 

 

 とまあ、これが詳細だ。フレーバーテキストまで付いていて、小憎いったらないね。

 称号は初期らしい、特になにもないすっぴんのものだから割愛するにして、だ。

 スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》。これが中々、界隈でも珍しいタイプのものだそうで。ギルド専属の鑑定士さん──スキル《鑑定》で上記ステータスを、第三者のものさえ見られる専門家だ──が目を丸くしていたのが印象的だ。

 

 なんでも普通、スキルの名称までポエミーなものはないらしい。ましてや解説など、称号でもないのに付いてるのは異常の一言だそうで。

 普通は《剣術》とか《索敵》とか単語オンリーの名称と、簡素な効果説明があるだけなんだってさ。

 

 効果についても、いくらなんでも強力すぎるとの指摘を受けた。

 通例で言えば《剣術》なら『剣を使った戦闘術の習得が早くなる』とか、《索敵》なら『周囲の気配を感知できる。感知範囲は熟練するにつれて広がる』とか。

 それそのものが実力に直結しているわけでない、強くなるための補助のような効果が主流らしい。少なくとも俺の《風さえ吹かない荒野を行くよ》のような、雑かつぶっ飛んだブースト効果など、探査者多しといえど前例がないそうだ。

 

 心当たりはあるか? とか聞かれたけどあるわけないだろ、知らんがな。

 こちとら花の高校生活を目前にした春休み、受験も終えてウキウキ気分でぐーたらしようと思っていた矢先にこれだぞ。探査者組合に束の書類を出さなきゃいけなかったし、新人教育も朝から晩までみっちりだ。

 挙げ句、入学までに初心者用のダンジョンを監督官立ち会いのもと踏破するよう言われて、もう俺の春休みは無茶苦茶だ。

 つまりはド素人もド素人。何聞かれたってはいかいいえかしか答えられない。

 

「はい、それじゃあ新規探査者教育最終試験を開始します」

「おねがいしまーす」

 

 ってなわけで今、俺はその初心者用ダンジョンに入っている。

 もう二日後には高校の入学式、今が初心者用ダンジョン攻略の締め日みたいなものなのだ。

 座学と軽い訓練は受けたものの、ぶっつけ本番に近い感じで不安なのだが、まあ監督官もいるし平気だろう。ただ、俺のスキルの都合もあって一人での探査にはなるから、何かヘマしないかって、そこは不安だけど。

 

 今回入る初心者ダンジョンは地下一階のみ、エリアが3つだけとお誂え向きにチュートリアル的だ。

 内容も、壁に電線が張られていて照明が付いていて明るい。土くれの道と外壁をそんな風にして不自然に照らすもんだから、テレビで見た坑道とかを連想とさせる。

 崩落したりはしないよな? と若干不安になりながら俺は攻略を開始した。





あとがき

皆様のご評価は書き手のガソリンですので、お気にいただけたならぜひぜひご評価お願いしますー


あと本作は書籍になったり電子書籍になったりコミックになったりしてますー

よろしければそちらもぜひともお願いしますー

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