第29話
――星が美しかったんだ。
だれかがわたしのそばで話している。
――キラキラ、キラキラ……あの輝きを、深淵から見上げていた。あんまりにも美しくて、どうしても欲しくなった。きっと手に入らないと思いながら……。
男の人の声だ。……何処かで聞いた覚えのある声だったけれど、だれかは思い出せない。
――手を伸ばしたら、届いたんだ。嬉しくなった。だから力任せに空から引きずり落とした。燃えて尾を引いて落ちていく姿が、美しかった。けれど……そうして地に落ちた星が泣いていた。……ようやく、俺はとても酷いことをしたのだと分かった。すべて取り返しがつかなくなってから……。
やわらかな陽の光の中で、白いカーテンが揺れている。だれかはその光の中で、一人、顔を伏せて話している。
――星は落ちて、……人になった。……いっそ虎になればよかったのだ。その方がずっと幸せだろう。
その人はわたしに触れることはなく、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆりかごをゆらす。……どうやらわたしは、そのゆりかごの中にいるらしい。ゆらゆら、ゆらゆら、ゆれながら、声を聞く。
――だけど星はもはや虎にもなってはくれないのだ。……俺のせいだな。俺なんかのために……。
日差しの中でだれかが語る。痛みを我慢している、そんな声で。すすり泣きながら、彼は話す。
――……だって、……こんな地獄にまで、付き合ってくれるなんて思ってなかった。……こんなところまで……落ちてきてくれるなんて思わないじゃないか、……。
だれかがわたしに触れる。
――あぁ、……人はどうして、生まれ落ちたときのような心持ちで、死んでいけないのだろうな。後悔ばかり……ここに残してしまうな……。
わたしはその手が好きだと思った。その手は、しかし、わたしの頭を優しく一度撫でたきり、二度と触れることはなかった。
――目を開けると、何故か泣いていた。
目元をこするとパリバリと目やにがとれた。起き上がり、顔を洗おうとベッドから降りようとしたら、そのままベッドから落ちてしまった。立ち上がろうとして、しかし膝から崩れてしまう。
(あれ……立つ、ってどうやってするんだっけ……)
気がついたら、ぐるぐると視界の中でシャンデリアが回っていた。わたしは、床に仰向けになってしまっているようだ。
「……頭が、……痛い……ような……」
ぐるぐる、ぐるぐる、見ていると気持ち悪くなってきて、結局、わたしは目を閉じた。そうすると一気に眠気が押し寄せてきて、わたしはまた、意識を夢に戻してしまった。
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