第22話

――果てしない物語 著ミヒャエル・エンデ


 母を亡くした少年バスチアンは、父さんと二人で暮らしている。父さんは母さんを亡くした悲しみから、笑わなくなっていた。そしてバスチアンは太っているから、といじめられている。

 そんな孤独な少年は、いじめから逃げて入り込んだ古本屋で、あかがね色の『はてしない物語』という本と出会う。その本の持つ不思議な力に引き寄せられたバスチアンは、とっさに本を盗み、学校の倉庫に引きこもり、『はてしない物語』を読み始めた。

 『はてしない物語』の舞台は、想像の国ファンタージェン国。

 その国の女王である『幼ごころの君』は病に伏せていた。そのために国では様々なものが虚無に消え、混乱の中にある。しかし病の治療法はわからない。勇気のある少年アトレーユは女王から預かったアウリンを持ち、女王の病の原因を、そして病の治し方を調べるたびにファンタージェン国を旅をする。そこには恐ろしい試練が待ち受けていた。そうしてその試練の中で、『はてしない物語』の中に、バスチアンの言葉が届いているような……むしろ語り掛けるような言葉が現れる。いや、それはむしろ、『わたし』に語りかけてきているようで――


 ――物語に落ちていく。

 物語の世界に飛び込んで、現実のまわりが何も見えなくなる。代わりに、その世界が見える。音が聞こえる。匂いが満ちて、目の前で『彼』が話し始める。

 本の世界の中では、わたしは自由だ。

 本は何もかも決まっているけれど、でも、たしかに自由なのだ。読むたびに違う色、読むたびに新しい音楽が奏でられ、わたしはいつも満たされる。

 瞼の奥の暗がりで、物語を反芻する。

 

(想像すること……望むこと……、……より多くを望むことで、より多くのことが想像され、そして、創造され、より世界は豊かになる……)


 何でも叶うというアウリンを手にしたら、わたしはなにを願うだろう。


(……願いはあるだろうか。わたしの中に……)


 目を閉じて考える。

 真っ暗な世界の中に、ぽっかりと深く暗い穴が見えた。わたしはその穴のそばで、穴を覗いてみる。穴は何も答えない。望みも、願いもそこにはない。

 ただ、わかる。

 わたしは飢えている。


(わたしの中には飢餓がある……)


 でもこの穴を埋めるものは、この暗闇の世界には一つもないのだ。


(わたしが、ほしいのは……光だ)


 読み終えた本の裏表紙を撫でながら、視線をあげる。

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