第17話
ベッドに腰掛けて、スマートフォンを眺める。
(……よく、みんな使っているものだけど、どういうものなのかしら……)
電源の入れ方と充電の仕方、ネットサーフィンの仕方、電話のかけ方とメールの送り方、それから電子書籍の読み方は鯖目さんが教えてくれた。あとは好きに使ってみるといいと言われたけれど、正直、よくわからない。
(青空文庫? というものだと、本がタダで読める、って……本当? ウソじゃなくて?)
電子書籍のアプリというものを立ち上げてみる。
(鯖目さんが、何冊か先にダウンロードしておいたって言っていたけれど……ア、……)
ライブラリというボタンを押すと、画面いっぱいに本の表紙があった。
「わっ」
びっくりしてスマートフォンを落としてしまった。ベッドの下に転がってしまったそれを拾い上げ、もう一度見る。たしかにそこにはたくさんの本の表紙がある。ス、とスクロールというものをしてみると、無限に思えるほど、そこには本があった。
「何冊か、じゃない。何百冊も……」
鯖目さんは、わたしに部屋をくれた。そうして食べ物をくれた。当座と言って服をくれた。本棚をくれると言って、そうして今日、こんなにも本をくれる。
(……わたしの中の神様を煮詰めて、蒸発したものを集めて、透明にしたら、鯖目さんの形になる……)
指が当たり、一冊の本が開かれる。
「銀河鉄道の夜、……著、宮沢賢治」
――ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか――――初めて読む物語だ。本を読むことは、落ちていく感覚に似ている。階段の上から突き落とされて、痛い思いをしながら、一番下まで落ちていく、あのときの感覚に似ている。
もう、自分ではどうにも制御ができないのだ。悲しくて、痛くて、辛くても、読み進めなくてはならないし、嬉しくて、楽しくて、おしまいにしたくなくても、指は最後までページをめくる。
「ほんとうのさいわい……」
気がついたら、本を読み終えていた。
漁から父が帰ってこないから、どこかの牢獄につかまっているんだと、いじわるなクラスメイトのザネリにからからかわれるジョバンニ。そうして彼の幼馴染であり、友人であり、けれどからかいを止めることはなく気の毒そうにこちらを見ているカンパネラ。彼らは気がついたら銀河鉄道に乗って宇宙の旅を始める。どこまでも、きっと、二人で、みんなのほんとうの幸いにまっすぐ進んでいくのだと、二人は宇宙を進んでいく。
しかしふと、夢は覚め、ジョバンニは銀河鉄道に乗る前の場所で目を覚ます。そうして、家に帰ろうとして、カンパネラが川に落ちたと聞くのだ。そして、もう、……だめだ、と。しかし同時に、父が漁から戻るとも聞く。ジョバンニは、病の母のもとに、一人駆けていく。
「さいわい……」
ベッドに横たわると、涙が流れた。
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