第16話
――ナルニア国物語 著 C・S・ルイス
七作からなる子ども向けの長編ファンタジー文学だ。発行された順と物語の中の順が異なるため、鯖目さんの言う通り、カスピアン王の航海がテーマの作品は、発行順では三作目であり、時系列順には五作目となる。
物語は、架空の異世界『ナルニア』に、二十世紀のイギリスの少年少女が行き来し、その時々の使命を果たす冒険談。
わたしは、母方の又従兄弟の従兄の……とにかくだれかの親戚の家にいたときに、この本を与えられて、何度も読み返した。持っていくことは許されなかったから、頭の中で何度も反芻した物語だ。
「ナルニア……好きなんです……」
「そうか。今手元にはないな、取り寄せておこう。他に読みたい本はあるか?」
鯖目さんはクローゼットを閉めながら、なんてことないように、そんな夢のようなことを言った。あまりにも夢のようなことで、私が金魚みたいに口をパクパクとさせていると、彼は、そんな私の顔をじっと見下ろした。
「そうか。……君は本が好きなんだね?」
わたしが何度も頷くと、彼は、目を細めた。
「それはいい。……実にいいことだな」
彼は、優しく笑ってくれた。それからまた、わたしの頭を優しく撫でてくれる。
わたしは、またおなかいっぱいになる。体中があたたかくて、うれしくて、つい、頬が緩む。
「……本棚を用意しよう」
「本、棚……ですか……?」
「君のお気に入りの本を詰めるんだ。それが君の、世界につながる足がかりになるだろう。君だけの本棚。……気に入ってくれるだろうか?」
彼の言葉は魔法の物語だ。わたしはドキドキする胸をおさえて「夢……、みたい」と呟くと、彼は優しい笑顔のまま、「今度こそ、喜んでいるように見える」と呟いた。
「……夕飯にしよう、ルル」
夕飯の席で、またわたしが暴食をしてしまっても、彼はその優しい笑顔を浮かべてくれた。
そのことに、わたしは本当にホッとした。
夕飯の後片付けが終わってから、彼はわたしに白い箱を差し出した。
「初期設定はしておいたから、好きに使いなさい。私の連絡先もここに入っている」
「……スマートフォン……?」
それは、初めて与えられた連絡手段、……通信機器だった。
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