第15話

こうして見比べてみると、彼がくれた新品のコートとは比べ物にならないほど古くて汚い。けれどあのコートは、大きくて、厚みがあって、風を通さないのだ。


(だから……もし外に放り出されたときのことを考えると……、でも……)


 もらった新品の服たちとコートを見比べていると、彼は優しく私の頭を撫でた。


「気に入っているなら取っておくといい。でも、……そうだな、大人の服が着たいなら、せめて私のコートにしなさい。あのコートはあまりにも君に似合わないから」

「……鯖目さんの、コート?」

「あぁ。これは今年買ったばかりだから、……これをあげよう。どうだろう?」


 鯖目さんはソファーにかけていた彼のコートをわたしの肩にかけてくれた。

 鯖目さんのコートは、軽いのにあたたかく、風を通さない。そして、彼の気配がした。これさえあればどんなところでも寒くない気がした。


(……ほしい、これ……)


 肩にかけられたコートを両手で握りしめて、彼を見上げる。彼は無表情でわたしを見下していた。


(わたし、ほしがって、ばかり……迷惑ばかり……)


 怖くて、目を逸らそうとすると、彼がその前にわたしの頭を撫でてくれた。


「どうだろう。納得してくれるだろうか」

「……納得?」

「あのコートをもう着ない件について」


 鯖目さんのコートと見比べてみる。欲しいのは、断然こちらのコートだ。


「……本当に、くれます、か?」

「私の持ち物で欲しい物があれば言いなさい。全て君のものだ」

「……ウソ……」

「ウソではない。が、……そうだな、扱いが難しいものは声をかけるように。君が怪我をするからね」


 彼は私の頭を撫でながらもう一度「で、君の持ってきた古着たちなんだが、取っておいてもいいのだが、その、できれば……」と言いにくそうに聞いてくれた。わたしが「捨て、ます」と頷くと、彼は深く息を吐いた。それは、ほっとしたときに出る、ため息だった。


(……無理やり、捨てたり、しないんだ)


 わたしはそのことに、ほっとした。


「ルル、服の値札を切ろう。数が多いから手伝ってくれ」

「はい」

「ダンボールが空いたら、君の古い服を詰めて……明日が燃えるゴミの日だから捨てよう。いいかな?」


 わたしが頷くと、彼は「助かるよ」とわたしを撫でてくれた。彼の手に触れてもらえると、本当にホッとする。

 二人で服の値札を外し、古い服を代わりに詰めて、新しい服をクローゼットにしまった。服でいっぱいのクローゼットは、魔法の国に繋がりそうなぐらい、キラキラしていた。


「ナルニア、みたい……」

「ナルニア国物語か。たしかに、この色だと海に繋がりそうだな。カスピアン王の航海は三作目だったか……五作目だったか、……」

「えっ」

 

 見上げると、彼は不思議そうにわたしを見返していた。

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