第三話 夢のクローゼット

第13話

鯖目さんの家で目を覚ましてすぐ、わたしは彼の運転で病院に連れて行かれて、健康診断を受けることになった。『健康診断をちゃんと受けるのは初めて。何故受けなくてはいけないのかわからない』、と鯖目さんに打ち明けると、『検査を受けることで次の道を選びやすくなる。君のこれからを考えるために、受けてほしい』と彼は丁寧に教えてくれた。


(私の、これから? ……これから、って、……何があるのかな……? これからなんて、あるのかな……考えたこともなかった……)

 

 身長を測ったり、体重を計ったり、血を抜いてみたり、エコーをしてみたり、レンドゲンをとってみたり、心臓の音を聞いてみたり……すべての検査終わる頃には夕方を過ぎていた。しかも、検査の結果はすぐには出ないものらしい。だから、今日はただ疲労するだけで何も分からなかった。

 疲れた心持ちのまま、鯖目さんの運転で家に着いたのは午後七時半。家の前の石畳の道の上に、そのままいくつかの宅配物が置かれていた。


「宅配ボックスは、ないんですか……?」

「この辺りに他に人家はないし、わざわざ盗む人もいない。家の裏に車を止めてくるから、運ぶのを手伝ってくれるか? 二階のリビングに運んでほしい」

「はい、わかりました」


 家に届いた荷物を持ち込み、靴を脱いで、それらを二階のリビングに運んだ。すべての荷物はさほど重たくなく、箱の大きさの割にはどれも軽かった。


(何の荷物だろう……?)

 

 鯖目さんは車をとめてから、カッターを持ってリビングに上がってきた。彼はカッターを使って箱を一つ一つ丁寧に開けていく。すべての箱を開けると、今度は一つ一つ丁寧に荷物を取り出し、一つ一つ丁寧にラッピングをとく。

 ラッピングの下から出てきたのは――


「君の服だ。今持っているのは随分……古いようだったから。取り急ぎ、すぐ届けてもらえるもので揃えた。数は足りるだろうか?」


 肌着、Tシャツ、Yシャツ、デニム、スカート、セーター、カーディガン、コート、……様々な服が段ボール四箱分もある。今持っている服の全部よりも多い。しかも、何より、全部新品だ。


(新品の服なんて、もらったことない……)


 これは、わたしのものなのだろうか。

 ……こんなに、自分のものがあってもいいのだろうか。


(……新品は、本当の家族、しかもらえないものだ……わたしは、厄介者で、迷惑で、邪魔で……)


 鯖目さんは呆然としているわたしを、その、光のない瞳で、静かに見下していた。

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