第6話
彼はわたしの肩を掴んだまま、わたしの顔をじっと見ている。どうしたらいいのかわからず、言われたとおり、顔を隠さず、彼の目を見つめた。彼の瞳の色は真っ黒で、睫毛は伏せていて、目の下にはクマがあった。顔色も悪く、痩せていて、頬のコケが目立つ。
そんな彼は、わたしの頬に手を当て、それからわたしの目の下に親指を当てた。そのあと、わたしの顎に親指を当てて、口を開かせたあと、また深くため息をついた。
「年齢は」
「十四、ア、いえ、十五歳です……」
「これで、本当に、十五か? ……あまりにも発育が悪い。顔色が悪い。慢性的に脱水、貧血を起こしている。喉が荒れている。風邪だ。というより免疫が落ちている、ここは日本だぞ……」
「エ、ア、わたし、あの、元気です……働けます……」
「黙れ。不愉快な言葉をこれ以上聞かせるな」
言われたとおり、口を閉じる。彼はため息をついて立ち上がると、苛立った様子で部屋を歩き回り始めた。眉間の皺が深く、怒らせたことはわかった。
けれど、どうしたらいいのかわからない。
(今までの家は、すぐに指示をくれたのに……掃除しろ、とか、不愉快だから隠れろ、とか、邪魔するな、とか……今のところ、話すな、座ってろ、としか……)
唇を舐める。まだココアの味がする。
(……この人、なんで私を引き取ったのかな……?)
唇の皮を食んでいると、彼が急に足を止めた。それから、ふと、思い出したように「ルル?」とわたしの名前を呼んだ。
「はい、……アッ、ごめんなさい、声を、アッ」
「好きに話しなさい。先程は厳しい言葉を投げつけて悪かった、八つ当たりだ。……待て、違う、ルルだと?」
「え、ア、はい、ルルです……」
なにか間違えたろうかと彼を見上げると、彼はわたしの顔を再び、じっと見た。
「まさか、君、女の子か」
「え、……はい?」
わたしが首を傾げると、彼は自分の前髪をかきあげてため息をついた。
「……私は、これから、不本意だが『言い訳』をする。聞いてもらえるだろうか」
「……はい」
大人にそんな切り出しをされたことはなかった。どうせ引き取れないのだろうけど、その理由をわたしに説明してくれるのは初めてだ。
(それって、……なんだか、嬉しい。人として扱われている気がする……)
わたしは膝の上で拳を握り、彼を見上げた。
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