第一話 魔法のココア
第2話
新幹線から在来線に乗換えて、さらにバスを乗り継いで、そこから山道の中にある石畳の階段を登り、石畳の道を進んだところに、その家はあった。
(地図だと、ここ。住所も、……多分、合ってる)
大きな、大きな、そして古い洋館だ。
日当たりがいいところにあるのか洋館は夕日を浴びてキラキラと輝く。一方で、石畳の道の横には様々な植物が鬱蒼と茂っていて、わたしの立つ道はもう夜のように真っ暗。だからこそ、その洋館はより輝いて見えた。
(これは、そうじするところが多そう……)
わたしはついに二つ目の滑車が壊れたトランクケースを持って、その家の前に立った。インターフォン高いところにあり、背伸びしても届かない。トランクケースを横倒しにして踏み台にして、手を伸ばす。
――リリ、ン。
インターフォン、高くて、涼やかで、耳当たりの良い音だった。しかし、その綺麗な音のあとに聞こえたのは、『だれだ』と、機嫌が随分悪そうな男の声だった。
(あぁ、……『また』か)
わたしは覚悟をした。
「上林ルルと申します。本日からこちらでお世話になるようにと、……以前、引受人になってくださっていたサカイさまから伺い、……もしご存知でないようでしたら、……出直しますので……」
偶にあるのだ。……いや、三回に一度はあるのだ。
引き継ぎがうまくいっておらず、次の家がわたしのことを知らなかったり、引き取り予定日の認識が異なっていたり、とにかく、家に入れてもらえない……ということが。
(……今夜は野宿パターンね……)
以前、このせいで、駅に三日泊まったときはさすがにつらかった。全身の感覚がなくなり、このまま死ぬのだろうと思った。けれどあのときはたしか親切な通行人が声をかけてくれて……警察に連れて行かれて、どうしたのだったか……とにかく最後はどこかの家にいた。
(だから今回も、きっとなんとかなるだろう。三月だけど、夕方の時点ですごく寒いけど、ここは山だけど、……コートがあるし、きっと死なない)
わたしは返事を待たずに、トランクケースから下りて、再びトランクケースを抱える。
「お騒がせいたしました。失礼いたします」
頭を下げて、踵を返そうとしたとき、目の前の扉が開いた。
顔をあげると、そこには酷く顔色の悪い男性が立っていた。
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