第23話◇初出勤◇

「そうね。」

「それと、私ハッピスイーツに就職できたのですよ。」

「そう。おめでとう。」

 涼子は事務所の椅子に座った。

「いつから?」

「今日からです。ここが終わったら行きます。一時からです。近いですから、車で五分で行けます.勝手入ってすみません。」

「良いのよ。うちの事は気にしないで。」

 明子は涼子紀香に感謝した。

 その日明子はユーカリ薬局を十二時に出ると、ハッピースゥイーツの近くにあるスーパーによってパンを買って駐車場で食べた。午後一時十分前にハッピースイーツに着いた。中に入ると店長ともう人に田辺さんと言う四十代くらいの痩せた女性がいた。

「こんにちは。」

 明子が挨拶をすると店長が言った。

「この前言うの忘れていたけれど、従業員は裏口から入って貰えるかしら。」

 店長は明子を裏に案内した。¥¥¥

「これがあなたのローッカーね。ここに貴重品とか制服を入れてね。」

「はい。」

 明夫は着替えるとピチピチの制服のボタンを留めて店に出た。

「今日から働いてくれる坂本明子さん。こちらは田鍋明美さん。二年働いてくれているからいろいろ教えてもらってね。」

「よろしくお願いします。坂本です。」

 明子は田鍋さんに頭を下げた。

「こちらこそ。」

 田辺さんは愛想なく事務的に答えた。ユーカリ薬局には涼子しかいなかったので気が楽だった。十年近く勤めていたが涼子は良くしてくれて嫌な思いをした事はあまりなかった。あと四人従業員がいると言っていたが感じの良い人たちだと良いなと思った。明子は着替えて見せに出た。

「何をすれば良いですか?」

「基本は接客だけどお客さんがいない時は、ガラスを拭いたり床を履いたり掃除して下さい。」

 店長が言った。

「商品は、朝入ってくるの。それを並べるのは午前中の人がするわね。ケーキは冷凍で来るのよ。」

「そうなのですか。」

 明子はケーキの入ったショーケースを眺めた。ケーキの数はあまり多くなかった。この店はフランチャイズなので基本店長が仕入れて残ったら自分の責任で処分しないといけないらしい。本社の委託だと本社が処理してくれるそうだ。ケーキ類は賞味期限が短いので商品の仕入れは気を遣うらしい。」

 説明を聞いていると、七十歳過ぎくらいの老夫婦が入ってきた。

「いらっしゃいませ。」

 皆で挨拶をした。奥さんが言った。

「法事に持っていくのでお菓子を詰め合わせて包んでもらいたいの。」

「はい解かりました。おのしはお付けしますか?」

「ええ。お供えで加藤と入れてもらえる?」

「はい。」

 店長はお菓子とお茶を小さな盆に載せて御客様が立っていたショーケースの前に置いた。その間田辺さんはショーケースの後ろにある机の上にお菓子の箱を置いて、引き出しから包装紙を出して包み始めた.二年も務めているというから慣れたもので、包装紙に包まれた箱に紐を掛ける手際も見事だった。

「こんなのできるかな。」

 不器用な明子は不安になった。商品を渡し代金を貰いポイントカードにポイントを入れ一連の接客が終了した。最期に四月のお花見団子難度のイベント商品のチラシを入れていた。三人そろってお客様を店舗の出口まで見送って頭を下げた。

「こんな感じ。わかった?」

「はい。」

 明子は心もとなげに答えた。

「本社雇だと研修があるのだけれどうちはフランチャイズなのでその都度教えるから分からないことは聞いてね。」

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