第24話◇仕事掛け持ち◇
店長が明子に説明している間、田辺さんは店の棚に商品を補充していた
平日のお菓子屋は余り忙しくなかった。チェーンなので月の行事に合わせた企画が決まっていて、そのチラシを折ったり、ディスプレイをした。お客さんが来なくてもゆーカリ薬局のように座って事務をすることもなく、店の中と外を履いたり、府ガラスケースや大きな窓を拭いたりした。五時になり無事一日目の仕事が終わった。明子は近くのスーパーで買い物をし、家に帰った。玄関を開けると理沙の靴があった。
「理沙帰っているの?」
声を掛けてリビングに入ると理沙はリビングのソファーに座ってスマホを見ていた。
「ママお帰り。」
理沙は顔を上げた。
「ただいま。肉買って来たからビール飲もうか。」
「いいね。理沙も手伝う。仕事どうだった?」
理沙は台所に来ると言った。
「そうね。ユーカリ薬局よりは疲れるわ。」
「そうよね。ユーカリ薬局はぬるいわ。私なんか嫌な思い山ほどしているもの。」
理沙は高校を卒業してから、建設会社の事務職に就いたが人間関係がうまくいかず一年も経たないうちに辞めた。その後ヘルパーの資格を取ってヘルパーもしたが続かなかった。一つ所で長く働くのは好きではないようで、保険もある派遣会社に登録して、一年ごとぐらいに仕事を変えながら働いていた。今は製菓会社の加工所で働いている。明子は肉を焼きながら、さっき買って来た缶ビールをグラスを二つ出して注いで飲んだ。理沙は二十歳酒が好きでビールや酎ハイを飲んでいた。焼肉とサラダと味噌汁で夕食を摂った。今まで大介もいたのでおかずの量も多くつくらなければならなかったが、今は理沙と二人なので支度も楽だったが、二人の食事は寂しさも感じた。食事を済ませて、片づけをしていると、スマホの電話が鳴った。画面を見ると大介だった。
「もしもし。」
「もしもしお母さん。」
「大ちゃん元気?どう一人暮らしは?」
「大丈夫よ。忘れ物したからおくって貰おうと思って電話したんよ。」
「ご飯食べたの?」
「これからラーメンでも食べるわ。」
「冷蔵庫にキャベツが入っているから入れて食べなさい。野菜取るのよ。」
明子が言うと大介は面戸管層に答えた。
「はいはい。そうそう。昨日お父さん来たよ。お母さんが帰った後に。」
「そう。」
「焼き肉食べに連れて言ってくれたよ。こっちに仕事で来たんやって。」
「そう良かったね。」
明子は電話を切ってから、浩一の事をいつ話したらよいものかと思案していた。第一回目の調停の日は三日後だった。¥¥¥¥¥
翌日から明子は朝六時に起き家事を済ませ、理沙に弁当を作り、身支度をして溌時半に家を出て、ユーカリ薬局の勤務が終わるとその足でハッピースイーツへ通う生活が始まった。ユーカリ薬局の勤務からハッピスイーツの勤務迄一時間あった。一度家に帰って昼食を摂って着替えることにした。理沙に弁当を作っていたのでついでに明子の分も作った。今まで半日しか働いていなかったが、一日になると疲れた。夫がいて食べさせて貰っていたのは有難い事だったのだ。と思った。四月の初めに大介は無事大学の入学式を迎えた。明子は、仕事を休んで福山まで出かけた。いろいろあったが、大学進学をさせてやれることが感慨深かった。浩一が来ていたらどうしようと思ったが来ていないようだった。調停はこれからなので大介の学費援助などして貰えるのかとても不安だったがとりあえず前に進めて良かったと思った。入学式のスーツや靴は実家の母里子が買ってくれた。スーツに身を固めた大介はそれなりに大学生に見えた。
四月の末に初めての調停があった。ハッピースイーツに休みを貰って、午後三時に今治地方裁判所へ向かった。大塚事務所へは何度か打ち合わせに行った。相談は有料なので明子は気かねければ行けないことをノートに書いて無駄話はしないようにした。大塚先生とは今治の地方裁判所で待ち合わせた。明子は三時二十分前に着いたが先生は来ていなかった。裁判所に入ると受付の人が明子に声を掛けた。
「調停の方ですか?」
「はい。坂本です。」
「しばらくお待ちくださいね。」
明子は待合室の椅子に座って先生が来るのを待った。明子は調停は初めてだったが、きちんとした格好をして行った方が心証が良いだろうと思って山田所長に逢いに行ったときのグレーのスーツを着た。このひと月弱、ぃ素が敷くしていたおかげか停めるのに苦労したスカートのホックもお腹をへこませなくても入った。明子は椅子に座ってスマホを眺めていた。画面に映った時計は二時五十五分と映し出されていた。
「五分前なのに。来ないなんて。忘れているのかな。そんなはずはない。昨日確認したのだから。」
電話をしてみようと思った時裁判所の入り口を駆け足で入ってきた女性がいた。女性は黄色のジャケット黒いシャツ、真っ赤なミニスカートに黒いパンプスと言う派手なお出たちだった。長。い髪の毛を揺らしながら走ってきたのは大塚先生だった。明子の方が弁護士のような服装だと思った。
「こんにちは。間に合ってよかった。」
大塚先生は息を切らせていた。遅刻はしていないが先生が息を切らせて待合室の椅子に座ると壁の時計が三時を示していた。
「弁護士ってこんなぎりぎりで良いのだ?」
先生は明子に断りもなく行きましょうというと受付に声を掛け中に入って行った。初めにあった時から変わった先生だとは思ったが
面食らった。 待合室では浩一は見なかったもう来ているのだろうか。初めてなのでよくわからなった。明子は大塚先生と共に担当の女性に案内されて小さな部屋に入った。そこはテレビでよく見る裁判所とは違っていた。部屋に入ると年配の女性がいた。
「調停員の川上雅子です。」
女性は先生と明子に名刺を渡した。先生と明子は机を挟んで川上さんと向き合って座った。
「弁護士の大塚真美と申します。」
先生は調停員に名刺を渡した。
「それでは事情をお伺いしましょうかね。」
川上さんはノートを広げて明子を見た。
「離婚したいと思う原因は何ですか?」
明子は、浩一がのぞきをして会社を依願退職になり信頼関係が崩壊したので結婚生活は続けられない旨を告げた。二十分程明子の話を聞いていた川上さんが言った。
「今の内容をご主人に確認してまいりますね。」
明子は川上さんの言葉に驚いた。
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