第21話◇生活の為に婚活◇

 まだ離婚していないのに結婚はできない。生活の為に結婚するというのもどうかと思った。生活の為や寂しさの為に結婚する人がいるから結婚相談所やマッチングアプリが成り立つのだろう。明子の場合きっかけは夫ののぞきでも離婚に至っているのだから明子にも責任がないとは言えない。姉文子のように三度目にして幸せを勝ち取った者もいるが、結婚と言うのはお互いに我慢しなければ成り立たない。明子はそれがもう嫌だと思った。貧乏でも自分の力で生きていく方法を探したいと思った。

 明子は一階のリビングのソファーに座ってそんなことを考えながら大介が二階の部屋から降りて来るのを待っていた。十八年間一緒にいた息子と離れるのはやっぱり寂しい気がした。大介は内向的で友達も少なく部屋でゲームをしている事が多くあまり話をすることも無かった。大介がいるお陰で理沙とのぶつかりも少なかった。浩一もいなく理沙と二人暮らしになると摩擦が生じることも多いかもしれないが隣に母里子もいるので何とかなるだろう。大介には浩一が出て行った事を離さないでおこうと思った。楽しみにしている大学生活に水を差したくなかった。そんなことを考えながら、ボーッと壁の時計を眺めていた。大介が十時過ぎにやっと下りて来た。大介は手ぶらだった。

「何も持って行かないの?」

「うん。荷物は着いているやろ?」

「大家さんから連絡あったら着いていると思うわ。」

 下宿は食事はついていなかった。大介がまめに自炊をするとは思えなかったが、とりあえず台所があったので、鍋窯や食器や米は送っていた。明子と大介は車に乗り込むとしまなみ海道を渡って、福山へ向かった。

 三月の末は、しまなみ海道から見える島々に桜が咲いていて美しかった。用事がないとしまなみ海道を渡る事等あまりなかったが、久しぶりに見る端からの景色は美しかった。大介は運転免許を持っていなかったので、明子が一人で運転した。大介は後ろの席で始終スマホのゲームをしていた。大介の下宿へは一度行ったことがあったので何とか当直することが出来た。十二時過ぎに無事下宿に到着した。最初は食事をしてから下宿に行こうと思ったが、先に大家さんに挨拶に行った。下宿は平屋で五部屋あり、大介は一番左の部屋だった。その横に大家さんの家があった。神谷さんはご主人と死別し下宿の家賃で生活していると言った。何もすることがないのでゴミも出していれば捨ててくれるそうだ。大介はゴミ出しなどしたこともないので有難かった。

 大家さんの家の玄関の呼び鈴を押すと神谷さんが出迎えてくれた。神谷さんはうりざね顔の色白の美人で肩まである黒髪を後ろで束ね、白いブラウスに水色のガーディガンに紺色のスカートを履いていた。

「いらっしゃい。お疲れ様です。どうそお上がりになってください。お茶お入れします。」

「ありがとうございます。お昼ご飯まだなので、これから広島風のお好み焼きを食べに行こうと思うのです。どこかお薦めありますか?」

「そうなのですか。ありますよ。この近所に。そこの角を曲がってすぐですよ。「みゆき」と言う店です。今日は日曜日なので学生も少ないのではないかしら。」

「行ってみます。これ召し上がってください。今治のゆるキャラばりいさんのクッキーです。」

 明子が紙袋を差し出すと神谷さんは受け取って礼を言った。

「一人暮らしは始めてなのでよろしくお願いします。」

 明子は頭を下げた。神谷さんは部屋のカギを渡してくれたので、部屋に荷物を置いて食事に行くことにした。大家さんの自宅と下宿はつながっていて広い敷地に車を停めて下宿まで歩いた。¥¥¥¥

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