第24話 佐笠山病院についての報告書
《
と、背表紙に書かれたバインダーを見つけたので手に取ると上の階から叔父が声をかけてきた。
「聖奈ちゃんに連絡したかー?」
「ん?あぁ、返事はまだ来てないよ」
俺は事務所のある二階から居住スペースである三階へと登る。
「そうか……。来るかな?」
「さぁ?別に来なくても――」
「――ダメだよ!来ないと……コレ全部俺らで食うことになるんだぞ!」
キッチンで晩御飯の準備をする叔父の目の前には大量の卵がある。
この建物の一階に店を構えている和菓子屋さんが過剰注文したとかで『おすそ分け』して貰ったのだが、男二人とはいえ……この量は。
ということで
学校から帰ってすぐ連絡したがまだ返事はない。
「退院祝いも兼ねてるって伝えたか?」
「いや脱走してんだから退院じゃないじゃんね」
まぁ……病院側も暴走気味の後藤医師から俺が逃げていることを知っているので追及してこないから実質的に退院なんだけど。
「叔父さん、コレ読んでいいんだよね?」
「あぁ見つかったんだ。うん。変なコトとか相談に来た人の細かいことは書いてないはずだからイイよ」
書棚の鍵を叔父に返し俺は自室へバインダーをもって戻る。
ベッドの上に身体を投げ出し俯けで読もうと思ったがバインダーが地味に大きく読みにくい。
「……ちっ」
制服置きにしている椅子に座り、雑貨置き場になっている机に向く。
一見すると勉強してるみたいだな。
バインダーをめくる。
――――――
【20××年1月20日】
「今年の日付だ」
【ここ数年、佐笠山病院(通称:大病院)で起きた怪奇現象についての相談、報告が増えているので通常の報告書とは別に記しておく。】
なるほど。今年になって纏めたものなのか。
読めなくはないが確かに字が汚い。……どうやら血は争えないってことか。
【キングスモールで起きた、あの事件以来ココ桜間市内の怪異事件発生数はハッキリ言って異常だ。】
【その中でも異彩を放っている場所の一つが大病院である。】
【とにかく数が多い。危険性がほとんど無いのも疑問だ。】
あぁやっぱり多いのか。
俺は先週までなにも知らずに過ごしていたのだが……運がよかっただけなのかもな。
俺はページをめくる。
【20××年2月24日】
キングスモールで起きた
【詳細は日誌のほうに書いてあるので省くが、今にして思うと、この日相談に来た女性から始まっていたのだな。】
……なんか筆が乗ってる。と言えばいいのか?
物語調っぽく書いてるのが癪に触るな。
【相談内容は『勤め先(大病院)で夜な夜な不思議な声が聴こえてくる』という事だった。相談者は『何を言っているかわからないけど確かに聴こえる』と言っていた。】
【『それはよかった。理解できたら襲われていたかと思いますよ』と伝えた。理解しようとすると引っ張られたり、過剰な反応をする恐れがあるので『わからない』方が良かったりする】
そうなのか……。
俺は《八つ目犬》の時も今日未明に遭った《顔鏡》もモロに理解しちゃったけど……いや、理解したから怪我したのか。
【大病院へ調査に行くのはボクの権力というかチカラでは流石に不可能なので『あまり考えすぎない方がいい』『もし被害が出そうになったらすぐまた来てくれ』と伝えることしかできなかった】
身内である俺ですら『インチキ霊能者』だと勘違いしていたくらいだ、大病院の人間が叔父を信じるのは容易ではないだろう。
俺はページをめくる。
【20××年2月28日】
次は前述の相談から四日後か。
【四日前に来た人と違い今度の相談者は若い男性で大病院の利用者だった。】
【三日ほど諸事情で入院していたが、ある日深夜にトイレに向かうと『複数人の声』が聴こえたという。】
……『顔鏡』のアレか。
【『複数の人間が話している声が聴こえてきたはずなのに、会話のように交互に話している感じではなく被って聴こえる。声のするところへ向かうと不思議なことに誰もいなかった。』とのこと。《声》の内容は覚えていないと言っていた。】
【『家について来ているのか』と訊ねると男性は『そのような事はない』と答えた。『調べておくが、おそらくアナタには問題がない』と伝えると納得はしていないが帰って行った。その後、大病院に連絡したが調べる許可は下りなかった。】
「……核心に至るような話はないのか……?」
数ページほど流し見でめくっていくが、残念ながら似たような話が続くだけで『調査の許可』は今日まで下りていないらしい。
「意味ねぇな……」
叔父には悪いがコレから得るものは無さそうだ。
部屋を出て叔父のいるリビングを通り階下にバインダーを戻しに行こうとすると叔父に呼び止められる。
「どうだった?」
「……残念ながら。『よくわかんないけど無害』ってことしかわかんねぇや」
数が多いだけで、そのどれもが芯を食っていない。
「有名な心霊スポットによくあるんだよなぁ」
なにやら絶妙に気になることを言われてしまったので足を止める。
「……なにが?」
「どんな《悪魔》なのかわかんないパターンだよ。ウワサが一人歩きしちゃってさ。芯がない悪魔が生まれるの」
「……俺が遭ったのはどっちかって言うと
《病院で誰かを喪った、遺された人の想い》が顕在化した悪魔ってことは病院からの帰りしなに伝えたはずだが……。
「たぶんそれは『怪異に解像度高くなった高虎が出遭った』からそうなったんだと思うよ。鏡系の悪魔は遭った人間によって印象とか変わるし」
「…………鏡系?」
初耳だが??
「いや、別に系統別の表とかあるわけじゃないし、間違ってる可能性もあるからね?」
あくまでも持論。
推察や推論の域は出ない。
「その上で《鏡系》と」
「もうなんとなく分かってると思うけどさ、ある程度見た目から予想できるでしょ。向こうがなんの悪魔で、『何をしたがっている』か」
……それはなんとなく思ってた。が、その考えでいくと先ず思うことがある。
今はまだなんの確信もないが。
「それよりさっ。聖奈ちゃんから返事きた?」
言われてスマホを確認する。
「……あれ?そういや来てないわ」
珍しい。
ミナカミは自称するほどの即レス屋なのに未だ既読すら付かない。
「勘違いかもしれないんだけど……」
「イヤな予感がする?俺もだよ」
叔父はそう言って火を止めた。
「勘違いだったらそれでいいからね」
エプロンを外し上着を羽織る叔父は少しだけイケてる感じを醸し出していた。
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