第17話「ロボットです」
まるで生きているかのように歯軋りをたてながら、全身に血管を浮き上がらせて激しく痙攣する。
金属製の装甲が光を反射し、眩い光景を作り出す。
目は赤く光り、凄まじい殺気を放っている。思わず息を呑み、迫力に圧倒される。
魔王軍幹部、そんなやつが、一貴族である私に敵うのか?死線の中で、幾度もの強敵と渡り歩いてきた奴と、私は戦えるのか。一抹の不安が過るが、そんな考えは一瞬にして消え去る。
私には大切な人が沢山いる。こいつを今ここで倒さなければ、世界が終わるというのなら、ここで逃げるわけにはいかないじゃないか。
…それに、今の私には仲間がいる。一人じゃない。それだけで、力が湧いてくる。
決意を新たにする中、一歩前に出た。
「ほう、この私に立ち向かう勇気を持ち合わせているとは
中々の度胸を持ち合わせているとお見受けします」
そいつはそう言い放った。私を軽んじているらしい。
言葉に耳を閉じて、二つの手を結束させて鋭く拳を形成する。周囲に微かな風が巻き起こる。静かに構え、目を閉じて瞑想する。心の中に渦巻く力が、実体となり辺りを包み込む。次の瞬間、手から風の刃が放たれた。
「鎌鼬」
風の刃は鋭く、空気を切り裂くような音を立てながら、一直線に敵に向かって進む。その動きはまるで、流れる水のように滑らかで、かつ獰猛な勢いを持っていた。
風は何よりも早い。そして目に見えるはずがない。その刃は確実に
しかし、その攻撃を読んでいたかのように、避けるすらなく腕は、その風の刃をなぞっていた。
身の毛のよだつ感触に身を震わせる。風が見えるのか?
違う、この怪物には特殊な電磁波を全身に纏っているのだ。
刃が衝突する瞬間、微かな電荷が発生するのを見た。
そして、怪物は刃のぶつかる衝撃により僅かに体を揺らした。
しかし、それは有効打にはなり得ない。攻撃が不可能と見た瞬間、彼は一つの決断を下していた。
「魔法が主軸の世界で武を極めましたか
私はそういうのも悪くはないと思いますよ、しかし弱い」
瞬時に過ぎ去る速さで腹部に付いている強靭な尻尾で殴打される。
数メートルも飛ばされ、咄嗟に受け身の姿勢を取るも全身が軋むような激痛に見舞われる。
…その歩みは止まることを知らず、確実にこちらへと近づいている。
―――その瞬間を待っていた。その歩みは、次の攻撃への布石だ。
風は、周囲を取り囲むように渦を巻き始める。そして、それは次第に勢いを増していく。
まるで竜巻のように、周囲の空気を巻き込んでいくのだ。
次の瞬間には、その竜巻の中から鋭い刃が飛び出してきた。
「だから、だからだから弱いんですよ、機械に風は効きますか?炎なんてもってのほか
じゃあ水は?雷は?もしかしたら、それを使えたなら勝ち目があるのかもしれません
しかし私はあなたのことをよく知っています、あなたは魔法を充分に使えない」
咄嗟に飛び退こうとするが、間に合わない。
足に鋭い痛みが走る。そしてそのまま地面に倒れこんだ。見ると、足から大量の血が流れていた。
刃は足を掠めていったらしい。その刃はまたも竜巻の中に戻っていく。竜巻の中で自由自在に飛び回っているようだ。
…言う通り、悔しいが、私は魔法をまともに使える程の総量が無い。
「人間は脆い、血を流せば、生きる気力も、動くことも
きっと、貴方は、何も成し遂げられない腐りゆく運命なのでしょうね」
警戒態勢を貫き、再度歩みを進める。やがて、頭上に鋭利な刃物に降り注ぐ。
「……本当に、貴方には驚かされてばかりですね」
「諦めるにはまだ早いですよ、言いましたよね、勝ってくださいと
かっこいいとこ見せてくださいよ、アリス様」
最後の瞬間を迎える覚悟を決め、瞼を閉じようとした瞬間、本来降り注ぐはずだった刃物は
頭上から忽然と姿を消す。その理由は、この空間の特性により知ることとなる。
「そうです、この「クリスタルプロテクション」は
時間が経過するにつれて自身の魔力総量が低下します
そんなちんたらしていたら、貴方の見下している相手に敗北することになりますよ」
「何を馬鹿なことを、仮にも魔王軍幹部、確かに、このままだと
私は動けなくなるでしょう、が、それより先に彼女の魔力総量が尽きることになるかと思いますが」
”セシリアさん”
”なんですか”
”逃げてください、この結界が崩壊しない程度の場所で身を潜めてください”
”…了解です、アリス様、勝つ算段は、あるんですよね”
「話は終わりましたか?」
セシリアの総量を換算すると、結界が崩壊する前のタイムリミットはおよそ数十分
その間に勝つ算段をするしかない。私は、数分、もしかしたら数十秒かもしれない。
このままでは魔力総量の低下により動けなくなる。つまり敗北を意味することになるだろう。
結界の崩壊と共に世界の終焉を招き、世界の秩序は崩れ、全ての生命が一瞬にして消し飛ぶ。
私はそれを防がなくてはならない。
セシリアもまた、全力を尽くしている。魔力を消耗し切ったその姿を見る限り
彼女もまた、限界を迎えつつある。どうしても勝機が見当たらない。
どんなに考えても、目の前の現実が覆いかぶさり、私の思考を奪っていく。
そうして、 通信が切れる。
私に出来ること、力だけが人一倍あって、それ以外はてんで駄目。
母様も、父様も、そんな私を見通して兄に全てを託したのだ。
「一度きりです、一度きり私は魔法を使えない。
……私は魔法が使えないから、拳で戦う、剣で戦えない、剣を振れない
そんな私の、イタチの最後っ屁です」
迷うな、傷つくことも、失うことも恐れるのなら、どちらも厭わぬな。
「電磁波を身にまとう程ってことは、それを
それを破壊すれば貴方を倒すことが出来るんですかね?」
どんなに血を流しても、止まるな、立ち上がれ、 この身が朽ち果てる、その最期まで。
私は、私のままでありたい。だから私であるために戦うんだ。
少しでもいいんだ、手を伸ばして、機体に触れられれば、勝機が見えるかもしれない。
「貴方がそこまで大馬鹿者であるとは思いませんでした!そんなことをすれば
貴方自身が死ぬことになるのですよ」
「私が、こうしないと、結局皆死ぬじゃないですか、そんなことも分からないんですか?」
手が触れる瞬間、機体は身震いをするように揺れ動き、素早く横に移動する。
「……その通り、私の機体は脆く、貴方の拳ならば破壊することが可能でしょう
悔しいですが私は、今のあなたでは勝つことが出来ない
今日のところは引き揚げますが、必ず克服して、いつかきっと、あなたたちを狙いに行きますよ」
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