第3話 工事現場

現在の時刻は9時30分、俺は工事現場近くで大きめの白いワンボックスカーの中で待機中に、


「ほら此処らへん治安はいいと言っても夜だと危ないんだ、通報もあったし念の為お話も聞かないといけないからさ、時間とってごめんね」

「いえ、お仕事お疲れ様です」


職質を受けていた。


肝試しをするのが大人数と聞いていたため、もしもに備えて俺が所有している中でもできるだけ大きい車で来たのが仇になった。

30分も同じ場所に止まっている大きな車は目立っており、怪しいと通報が入ったらしい。


「じゃあ休憩中だったんだ?」

「はい」

「そっか、あーじゃ最後に念のため車の中を調べさせてもらってもいい?」

「えぇ、どうぞ」


そんなに怪しいのだろうか?

格好も普通のスーツだし、後ろには日本酒と白いタオルに


あっ……


「ちょっといい?

これはいったい何かな?」

「塩です、開封してもらっても大丈夫ですよ」


視線が鋭くなり気まずくなった、俺の背後に1人の警察官が立ち警戒しているのがわかる。

誰か来る前に早く終われ、頼むから。


「はい、えー……

問題はありませんでした、ご協力感謝します」

「……はい」

「それではお気をつけて」

「はい、お疲れ様でした…」


しっかりと車の隅々まで確認し、何も問題無いという判断になった。

だが警察官の視線は少し鋭いまま、そんなに怪しいと感じさせてしまったのだろうか……


【まだ?】

「まだです、あと30分は掛かると思います」

【いい匂いがするのに我慢しろなんて、私焦らされてる】


何が焦らされてるだ。

無駄に綺麗な女性の声に変えて何がしたいのか、黒いドロドロにそんな気持ちになる訳ないだろ。


【本当にいい匂いがする】

「そうなんですね……」


夜になったからか存在ナニカが活発的になって、車の上でネチャネチャ音を出して這い回っている。


ピロン


恭斗きょうと『あと5分ぐらいで着きます』


「了解、っと……」


待機していた場所は工事現場の裏側、つまり入り口とは反対側が見える場所。

その裏側に2台の車が止まり、中から人が出てきた。


「お、あれか?」


懐中電灯をお互いに向けたりして楽しそうにしている。


「……ふぅ、これが殺意か」


よく見ると腕を組んでいる男女、遠目でも特別な関係だとわかるペアが2つあった。

実に青春で、なんか殺意が湧いてくる。


【大丈夫、大丈夫、貴方には私がいるわ】


黒いドロドロに慰められる成人男性の図、それは自分自身のことなのだが控えめに言って意味がわからない。


ピロン


恭斗きょうと『今から入ります』


メッセージが入るのと同時に前の集団が工事現場へと入っていった。

工事現場の規模的に15分から30分だろう。


その待ち時間で、来る途中にコンビニで買ってきたサンドイッチとコーヒーを食べる。

もしかしたらグロめな姿の幽霊を見ることになるかもしれない、先に食べておかないと食欲が減っちゃうからな。


【分けて、ねぇねぇ分けて!】

「どうぞ」


存在そんざいのドロドロが触手のように動き、当たり前のように車の天井をすり抜け、当たり前のようにサンドイッチを強奪し戻っていく。


【足りないぃ】


普通の食事で足りたこと無かったじゃん。

幽霊まであと少しだから我慢しろ、1袋分は持っていかれて俺も足りないし我慢するから……


【いいの?いいの?】

「あと20分は待ってくださいねぇ」


存在ナニカの我慢が限界に近づいてきている、そろそろ背中をつねられ始める頃だな。


【そんな!こんな美味しい匂いの奴に餌を与えてさらに美味しくしてくれるなんて……】

「ん?」

【惚けなくてもわかってる、全て私のため、本当に大好き】


なにかおかしいぞ?


「なんの話をしているのですか?」

【此処にいるご飯の話ぃ】


「「「うわあぁぁぁ!」」」


工事現場から悲鳴が聞こえた。

そして全て理解した。工事現場には存在ナニカがいい匂いと言うほどヤバイ奴が居て、餌を与えると言うのは肝試しに入っていった人達のこと。


叫びながら出てきた奴等は車を急発進させて去っていった。


ピロン


恭斗きょうと『助けてください』


さっきの車で逃げたんじゃなかったのか?

返信をしようとした時に連続でメッセージが送られてくる。


恭斗きょうと『2人で部屋に閉じこもってます、なんとか扉を抑えているのですが限界みたいです』


このメッセージを打ってるのは別の者だな。言葉の節々が松浦まつうららしくない。


「どうしたらいい?」

【結晶を割ってこの車に走れば助かると思ぅ、

いい匂いする奴を食べたいけど、貴方の仕事の邪魔できないから我慢する。

ほら、私できる女だからぁ】


仕事の邪魔?

よくわからないが直ぐにメッセージを送り、裏口の前へと車を動かす。


【後ろを開けるねぇ】

「ありがとうございます」


ガタガタガタ


地震は起きていないのに工事現場が揺れている。

そして出口から松浦まつうらと同年代ぐらいの女の子が走って車に飛び乗ってきた。


神崎かんざきさーーん!」

「よく逃げ切った、早く扉閉めろ」

「はい!ありがとうございます!」


取り敢えずこの場から離れる為に車を走らせる。

2人は置いてあった水を飲んだりして乱れた呼吸を整えていた。


【あまり美味しくなぃ、けど沢山いる!】


黒い毛の塊、尻尾が複数ある動物などの霊が車を追いかけて来ていた。

普通なら存在ナニカが待ち構えているのを見た時点で力の弱いのは逃げるはずだが、今回に関しては逃げるどころか噛みついて来る。


【いいね、いいね!

美味しくないけどお腹は膨れるぅ!】


向かって来てくれるからか捕まえる事より食べる事を優先してる。


「凄い、どんどん消滅していく……

神崎かんざきさんどうやってるんですか?」

「後で教えてあげますから、先に横で泣いてる子を落ち着かせてあげてください。

恐れは奴等の力を強くしてしまいます」


ある程度追いかけて来てる霊が減ったら事務所に連れていこう。説明とかそれっぽい事考えておくか、訴えられたら面倒だし……

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