終わらない工事現場

第2話 アルバイト

ピロン


懐に入れていたスマホが鳴った。

どうやら雇っているアルバイトからのメッセージのようだ。


恭斗きょうと『学校終わったので今から向かいます!

神崎かんざきさんは事務所にいますか?』


「早いな、もう来るのか」


依頼を終え事務所で休んでいる事を伝えると甘い物を買っていくと返信が来た。


「少し片付けておくか」


今のメールの相手は、この事務所でアルバイトとして雇っている松浦恭斗まつうらきょうと


俺が霊が居ないか調べて欲しいと依頼された家の隣に住んでいた青年。

その家には実際にタチの悪い霊が取り憑いており、祓うという名目で存在ナニカに食べさせていたときに声をかけられたのが出会い。


霊は昔から見えていたらしく、何度か襲われる事もあって徹底的に見えないふりをしていた。


だが隣の家にヤバイのが来て毎晩不安で眠れない日々が続いていたが、俺が仕事で霊を祓っているのを見て自分も身を守るすべを知りたいと弟子入りを志願してきた。


もちろん最初は断った。

俺は見ることはできても実際に祓うのはあの存在ナニカ、そもそも見えるようになったのも存在のおかげで子供の頃は霊感なんて無かった。


何度も断ったが諦めず、あまりのしつこさに時にはキツイ言葉も当てた。

だが1年後高校生になった松浦まつうらはアルバイトとして雇ってほしいと事務所にまでやってきた。


正直諦めたと思っていたのと熱意が凄く、思わず折れて雇ってしまった。


神崎かんざきさーん!マカロンとショートケーキどっちが良いですか?!」

「おぉ早かったな」


髪を金色に染めてチャライ雰囲気と見た目で誤解されてしまうが、気遣いが上手い奴で今では雇って良かったと思っている。


「はい、どうぞ!

ショートケーキはひとつずつ、マカロンもひとつずつです」

「そうか。ん?なんで選択肢として聞いた?」

「なんとなくです!」


今では軽く冗談を言える仲だ。


スイーツ分の料金を渡して、買ってきてくれたケーキを食べながら今日の依頼内容を話す、もちろん個人情報は一切話さない。


「って事は幽霊の正体はストーカー?」

「生霊ではなかったし、偶然見かけて惹かれてしまったんだろうな」

「なるほど〜、ちなみに強かったですか?」

「弱かったな(らしい)」


アルバイトと言っても別に忙しい訳では無いので基本的には雑談するだけ、偶に相談者の所へ共に行ったり心霊スポットに特訓へ行くぐらいだ。


「俺も早く神崎かんざきさんみたいに強くなりたいです」

「そうか……」

「前回の目標もそろそろ達成できそうなんですよ!

これの調子で頑張ります!」


教えている訓練方法は存在ナニカに囁かれた事をそのまま言っているだけ、今回は確か集中力を高め霊を睨み動きを止める訓練だったはず。


初めは俺もさりげなく訓練していたんだが存在ナニカに【才能無い】と言われてから、いざという時に走って逃げるための体力作りしかしていない。


「あっ、そうだ神崎かんざきさんは終わらない工事現場って有名な廃墟は危ないですか?」

「隣町のショッピングモールができる予定だった場所のことなら知っている、あまり近づかない方が良いな。

……どうかしたのか?」


様子がおかしい、少しソワソワしている。


「クラスメイトが今晩肝試ししようってそこに行くみたいで、なんとなくヤバイ気がしたんで引き留めたんですけど聞く耳持たなくて」


幽霊を集めに何度か行った事はある。

だがもう2ヶ月は行ってないし、そこそこ力強い奴が取り憑いたかもしれない。


ほとんどの場合は取り憑かれるだけで直ぐに襲われて命に危険が及ぶ場合は少ない。

だが稀に強い奴に目をつけられると、見えない刃物で切り付けられたり、首を絞められたりする事もあってかなり危険だ。


「一応着いて行って守ろうとは思うんですけど、1人だと心配で……

なので、よければ神崎かんざきさんに来てもらいたいんです」


ふむ、どうせ今晩も廃墟巡りしないといけなかったし近くで待機してるか。


「わかった、今晩は廃墟の近くに待機していよう」

「本当ですか?!

神崎かんざきさんがいれば安心です、ありがとうございます!」


大切なアルバイトを失うわけにはいかない。


俺が心霊相談所を開くと話した瞬間、家族にはもちろん友人達は一気に離れていってしまった。

当時の俺はかなり荒れていた。


そんな事情もあり、プライベートではヤバい奴を除き唯一の普通の話し相手でもある松浦まつうらは俺の支えの1つになっており、お願いは出来るだけ叶えてやりたい。


「何時から行く予定なんだ?」

「10時ですね。クラスメイトの兄が車を出してくれるみたいで参加者は俺含めて8人です」

「なるほどな」

「女子もいます!」


楽しそうだが、何故そこを強調した?


「めっちゃ可愛いんですよ」

「そうか…」


やっぱり男って事だな、雰囲気はともかく中身は真面目な感じしかしなかったし逆に安心する。


「塩とか持って行ったほうが良いですか?」

「例えば、【清潔な白いタオル】……清潔な白いタオルとかあるといいな」


存在ナニカからの横入りが入った。

この存在ナニカは姿を隠す事が出来る、そのおかげか松浦まつうらには見えないし声も聞こえない。


「お清め用ですか?」

「そうだな、それ以外は用意しておこう。

車の予備鍵を渡しておくから何か問題が起きたら駆け込んで来るといい」

「ありがとうございます」


こんなこと言うのはなんだが、その廃墟に沢山霊が溜まっている事を願う。

深夜の廃墟をハシゴするのは疲れるし、職質もされるしで大変なのだ。


机の物入れから透明な結晶を取り出す。


「念の為コレをやろう」

「これって!」

「逃げられないと思ったら地面に叩きつけろ、一時的に霊が混乱するはずだ。」

「大切にします!」


ちなみにこの結晶は存在ナニカがたまに渡してくる便利アイテム。

強力な霊を食べた後、機嫌が良いとくれる使いやすい道具で自衛用に使う時はもちろん、事務所での仕事でも重宝している。

予備は多分70個ほど。


「廃墟に着いた時にメールしますね」

「わかった、9時ぐらいから待機している予定だからそれより早くなる場合もメールして欲しい」

「了解です」


1時間前に行くのには理由がある。

基本的に霊を満足するまで食べれなかった場合、存在ナニカは俺を眠らせずに幽霊を探させる。


だがなんらかの待ち時間は探してる判定になるみたいで仮眠ができるのだ。

これは俺が編み出した存在ナニカの目を誤魔化し、仮眠できる時間を作る高等テクニック。


【小狡い小狡い、でも許してあげる】


見逃されているだけだったな……



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こんにちはノツノノです


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