どうも心霊相談所の代表です まぁヤバイ存在に脅されて仕方なくやっているのですが……

ノツノノ

始まり

第1話 心霊相談所

睨む様に俺を見る高校生くらいの女の子と警戒心が薄そうな女性が目の前のソファーに座っている。

2人の前に座るのはスーツを着て髪をオールバックにし眼鏡をつけた男。


「初めまして私はお2人の相談を担当させて頂く神崎湊音かんざきみなとと申します。

一応祓う力も持っておりますのでご安心ください」


この2人が今回の相談者だ。


「お母さん帰ろうよ……」

「でも私達全員、家で鳴ってる変な音のせいで最近眠れていないじゃない、解決するか分からないけど話だけは聞いてもらいましょ?」


娘さんの気持ちがよくわかる。

心霊相談所って掲げてる事務所なんてどうしても怪しいと感じるだろうし警戒している娘さんは正しい、むしろこんな怪しさ満点の場所に娘も連れてくる母親の気がしれん。


まぁ、その怪しい心霊相談所の代表、俺なんだがな……


「娘さんの心配は正しいですよ。

心霊相談所をやっていると怪しいや胡散臭いなんて言われ慣れていますし、実際に偽物が多いのも事実ですのでね」


この人達には確かに憑いてるがこのままじゃ仕事にならず時間が過ぎていくだけ、軽く安心して早く話してもらう。


「私の相談所では住所や名前を聞くことは致しません、多少の気休め程度にしかなりませんが安心してください」


娘さんの厳しい視線が和らぐ。

本当に困って相談に来る人の特徴として住所や名前を知られる事を嫌がる事が多く、その2つを聞かないと言えば警戒心が0になる相談者も少なくないのだ。


「実はここ最近家の中で異音が頻繁に聞こえているんです」


警戒心が完全に消えたわけではないがある程度は信用してくれたのか、娘さんと目を合わせ頷いたあと俺の顔を見ながら話し始めた。


「夜になると家中から聞こえて、特に酷い娘は睡眠不足になってしまっているようで……」

「なるほど、他の異常は何かございますか?」

「特にはありません」

「なるほど…

ちなみに異音とは、どのような音ですか?」

「しゃりしゃり、って猫が爪を研ぐ様な音です」


異常が異音のみの場合だとなんらかの小動物の場合が殆ど。

だが今回に限っては動物では無い、目の前の2人が考えるように霊的なモノの仕業である。


「1番初めに連れてきたのは娘さんですね」

「「!」」

「お2人の話を聞いていて私は違和感を感じていました、頻繁に異音を出せるほど強力な霊なら姿を表してもおかしくないのです」


立ち上がり2人の背後にある窓へと近づく、そこには草臥れた男が部屋を覗き見ていた。

だが、この男は俺にしか見えていない。


「それにお話をしている最中、娘さんが終始外を警戒していました。

それは私に対する不信感による物と考えていたのですが、話をしてくれて警戒心を下げてくださったのにも関わらず何度か振り返り窓を確認していましたね?」

「は、はい」

「貴方は常に何者かの視線を感じていますか?」

「感じています!コレはなんなんですか!私何もしてないのに!」


緊張に耐えきれなくなったのか俺に向かって怒鳴りつけてくる。

恐らくだが恐怖でいっぱいだった所に俺が言った質問のせいで抑えていた感情が溢れ出してしまったのだろう。コレも本物の相談ならよくある事。


「これから話す事は信じられないかも知れませんが真実です。ショックを受けるかもしれませんが聞かれますか?」


娘さんは母親に強く抱きしめられながら涙を流しているが、覚悟ができたのか小さい声だったが教えて下さいと伝えてきた。


「今回の異音の原因ですが、一般的に幽霊と呼ばれるもので間違いありません」


窓の外を眺めながら続ける。


「あなた方家族に取り憑いた理由は正直わかりませんが、恐らく霊が娘さんの何かを気に入ったのだと思います」

「ど、どうすれば離れてくれるんですか?」


恐る恐るといった声だった。

娘さんは警戒していた割に信じるのが早かったが、母親は展開の速さにまだ現実感が湧いていないのかポカンとしていた。


「この部屋の中に閉じ込めます」

「閉じ込める?」

「この部屋から霊が出られない様にし、その間にお2人は部屋から出て逃げる。

これが1番安定し成功率が高いかと思います」


俺の提案に対し2人はどこか不安そうにしていた。


理由はわかっている。

この部屋に幽霊を閉じ込めるという事に対し、解放されるという喜びと俺を心配する気持ちがあるのだろう。

優しい依頼者だ。


「私はプロですから怪我をする覚悟はできています、ご安心ください」


だが軽く背中を押してしまえば心配する気持ちより、解放される喜びの方が大きくなる。


「なら、よろしくお願いします!」

「えぇもちろん」


カーテンを閉じ、2人へと視線を向けた。


「この部屋に呼び込みます。

怖い思いをするかもしれませんが絶対に守るので安心して下さい」


名刺と部屋を出た後の流れを書いた紙を母親に渡し、1週間後に異常がないかの連絡をする事を約束する。


「あの報酬は……」

「今回はそこまで厄介な相手では無いので、1週間後の連絡で話しましょう。大体1万円前後を考えています」


電気を消し扉の近くに蝋燭を灯す。


「では視線の主を呼びます、目を瞑り視線の相手を意識しながら呼び込んでください。

その後は何も喋らずこの部屋を出て渡した紙に書かれている事に従って下さい」

「お母さんは一緒でも……」

「大丈夫です。ただ娘さんだけは必ず目を瞑り何も喋らないようにしてください」


深呼吸を何度もして母親と抱き合ったあと、俺に目線を向けた。


「ふぅぅ、やります……【ここに来てください】」


声が二重に聞こえ、空気がどっと重くなる。


「そのまま目を瞑って喋らずに部屋から出てください」


扉までは2メートル程、ゆっくりと歩いていく。

依頼者の2人は呼吸が荒くなりつつも扉を開けて部屋の外に出た。


「ハァァ、終わった」


ソファに倒れ込むように座り力を抜く、やっと演技をしなくても良くなった。

ちなみにこの部屋はそれなりに防音の部屋だから扉さえ閉まっていれば俺の声は外には聞こえない。


【もうイイ?】

「あっ、どうぞ…」


実はこの部屋には最初から依頼者の2人と俺以外にも普通の人には見えない存在ナニカが居た。


【弱い?強い?うん弱い】

「物足りないのか?」

【足りないぃ】


その存在ナニカは黒いスライムに似たドロドロの形をしており、触手のように腕を伸ばしながらボロボロの草臥れた男を拘束し食べている。


【足りない、もっと欲しいぃ……】

「夜に散歩でもしますか?」

【するぅぅ!】


ミシミシと部屋が軋む。

この存在ナニカは正体がわからないとても力が強いナニカ。


「オフィスが壊れちゃうので力抑えていただけると……」

【しょうがない、しょうがない。

私の手足、今日も頑張る】


男を食べ終えた存在ナニカは霧のように消え、部屋の中が軽くなった。

そして机の上には2万円が出現していた。


「なんでこんな所だけ律儀なんだ……」


この存在ナニカはなぜか俺に付き纏っている。

当時大学生だった俺は寺や神社、果てには教会を転々としたが何処も門前払いか頭のおかしな奴を相手にする対応しかされずで精神的にかなりきていた。


その状態が変わったのは俺が栄養失調で倒れた時、この存在ナニカが近づいて俺に触れた。


あぁ、俺は喰われるんだな。


なんて考えながらボーッとしていたが、触れた瞬間に疲れや疲労が全て吹き飛んだ。


そして、


【幽霊を喰わせろ〜……】


最初はただのお礼のつもりだった、人というのは不思議なもので限界状態で助けられると、そいつが原因のはずなのに感謝の気持ちが湧き出るのだ。


【ありがと〜】


そう言って消えた時は人が沢山居たというのに大声を出してガッツポーズしてしまった。

まぁ、次の日に起きたら普通に目の前にいたんだが……


それからは大学をなんとか卒業していざ就職とはならず、存在ナニカからの幽霊を喰わせろという要求をこなして過ごしていた。

幸いなことに生活費について相談したら幽霊1体につき2万円をもらえたため、なんとか生活できていた。


ただ急に湧く金は問題になると考え、心霊系の相談事務所を設立。コツコツ評判を上げつつ3年、今では1週間に2人は相談に来るまでに成長したのだ。


「いつまで続くんだかなぁ…」


正直この生活に疲れている。

信頼される為に霊能力者を演じてるのに加えて、いつでも簡単に俺を食べれるであろう存在ナニカが近くに居る、それだけでストレスがすごいのだ。


「糖分、糖分…」


今では糖分を取ってストレス解消をするため、近くで買った饅頭を食べるのが日課だ。

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