第5話 精霊ヨグ

を呼ぶのは、貴様であるか!』

 頭の中での声が、鳴り響いていた。

 猛烈な頭痛が襲ってくる。


(何が起きたんだ?ここはどこだ?頭に響く声は一体…?)


 僕の問いに応えるかの様に、頭の中での声が響いている。


『貴様の呼ぶ力に応えて、は在る。に特段の名は無く…呼ぶもの…一にして全て…全にして一つ…次元の裂け目に棲まうもの…嘗て在り、今在り、将来に在り続ける…あらゆる大地、あらゆる宇宙、あらゆる物質を超越する最極の空虚…』

 膨大な情報量が脳内に、濁流の如く響き渡る。

 

「直ぐに魔法を解きなさい!」

 物理的なに、声が届いた。


「パラポンテを解く!ってどうすれば?」

 僕は大声で、その声の主に問い返した。


 すると突然、静寂が戻って来た。

 まるで何事も無かった様に、静かな林の中に佇んでいる。


「危ういところでしたな」

 傍らからは、先程まで耳に届いていた声が掛けられた。

 そこには全身高級仕立ての服を、黒色コーデで着熟きこなす老紳士が立っていた。


(まるで王都の高位貴族の様だ)


 こんな林の中では、場違いな印象を受けた。


「貴方様に助けて頂いたのでしょうか?」

 老紳士は、静かに頷いた。


「ありがとうございます。僕はアランティと申します」

 僕は感謝の気持ちを込めて、深々とお辞儀をした。


 老紳士は静かに言葉を紡ぎ出した。

「アランティ君、はいけない。それとも危険を承知の上だったのかな?」


 僕は正直に、事情を説明した。

「僕は今日、大聖堂カテドラルで祝福の儀を受けました。魔法が発現したのに、司教はそれを認めないばかりか、異端審問に掛けようとしたのです」


 老紳士は頷きながら、頬に笑みを湛えて言った。

「君は司教に復讐をしたいのかな?それとも聖会に鉄槌を加えたいかい?いっそ王都ごと滅ぼしてしまおうか?」


 老紳士は興味津々で、僕の返答を待っていた。


「僕は授かった魔法を認められれば十分です」


 やや失望した面持ちで、更に質問を重ねてきた。

「あんな危険な魔法を、聖会が認めると思っているのかい?」


(さっきの激しい頭痛では、正常な判断すら奪われていたけど…)


 老紳士に対して、素直に自分の希望を伝えた。

「どんな魔法でも良いんです。貴族になって、ただ家名を再興したいだけなんです」


 老紳士は失望した面持ちで、語りかけてきた。

「君が望む場所まで送ろう。どこに帰りたいのかい?」


「僕は家に帰って、お爺さんを安心させたいです。ところで貴方様の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「私の名前かい?」

 途端に紳士的な声色が、禍々しく変わっていく。


「私の名前は…這い寄る混沌…ニャルラトホテプ…」


 再び周囲の景色が、暗転し始める。

 僕は危機感に反応して、本能から叫んでいた。


「パラポンテを解呪する!」

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