第4話 異端審問

 やがて別の扉から黒い宗教服を着た男たちが、司祭の間に集まり出した。


(何だろう。まるで別の宗教関係者みたいだ)


 黒い群衆の内から高位と思しき男が進み出て、僕に対して死の宣告をした。

「我々は異端審問官である。汝、アランティは異端の罪にて、教会法により拘束する」


 僕は反論が許されぬままに、司祭の間から引き立てられてしまった。

 尚も抵抗した僕の腹には、脇に居た異端審問官から繰り出された握り拳がメり込んでいた。


 そのまま暗い闇へと意識が刈り取られたのであった。



 ◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 気が付くとジメジメとした岩肌に、寄り掛かるように転がされていた。

 暗闇の中、近くがボンヤリと見えるだけである。


(どこだろう…?)


 フッと正面から空気が流れてきて、僕の頬を撫でた気がした。

 ゆっくりと正面に手を伸ばして、数歩前に進み出た。


ガチャン!


「痛いっ!」


 指先に強い衝撃が伝わって来た。

 手探りで指先に触れた物を確認すると、それはであった。

 そこで初めて、自分が異端審問官に連行されたことを思い出した。

 体全体から自然と脱力して、その場にへたり込んでしまった。


 僕は異端審問なんて、都市伝説だと思っていた。


 噂に聞く話では審問などとは名ばかりで、次々と罪状を並び立てられて、司教の独断で刑が執行される。

 その刑はほとんどの場合がである。


 僕は自分が置かれた状況を理解し始めると、急に喉の奥から酸っぱいものが込み上げてきた。


ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ…


 一頻り吐き終えると、そのまま元の壁際に凭れ掛かった。


(僕は死にたくない!)


 しかし現実的な思考が、淡い期待を打ち砕いていく。


(最近は病気がちなお爺さん。家で心配してるよな?せっかく貴族に返り咲いてミルドレク家を再興して、ちゃんとした医者に診て貰いたかったのに…)


 絶望感からか、ツーっと一筋の涙が零れ落ちていた。


 何の精霊か?属性は何か?さっぱり分からない事だらけだけど、司祭が読み上げた不思議なだけは覚えていた。

 僕は胸元から愛用の魔杖を取り出すと、先程聞いたばかりのを唱えてみた。


「パラポンテ!」


 すると目の前の世界がグニャリと歪み、前後上下左右の方向感覚が失われた。

 とても気持ちが悪かったが、先程吐き出すものは吐き出し切ったお陰か、何とか意識だけは保つことが出来た。


 やがて視界に広がる世界に、安定感が戻って来た。

 僕はいつの間にか、零れ日が差し込む林の中に立ち尽くしていた。


(一体ここは何処なのだろうか?)

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