第6話 灰色の猫
気が付くと、自宅の前に立ち尽くしていた。
(どこからが夢だったのだろうか?)
フッと自分の肩口を見下ろすと、木の葉が一枚付いていた。
手に摘まんで取り去る時に、この辺りで見ない葉であると思った。
足元には見慣れない灰色の猫が、じゃれ付いていた。
(この猫って近所では見掛けないけど、林の中で巻き込んじゃったのかな?)
家に戻ると、病床のお爺さんが臥せる部屋に入った。
灰色の猫も僕の後ろを付いて来て、家に上がり込んでしまったようだ。
お爺さんは僕を見ると、驚いた表情からやがて歓喜の表情に移り変わった。
「アランティ、無事だったんじゃな。良かった。本当に良かった…」
何やら涙ぐみながら、僕のことを抱き締めながら繰り替えして言った。
(僕が外出してから、三時間くらいしか経過してないよな?)
僕はお爺さんに何か、心配事が有ったのか聞いてみた。
すると、目を丸くして逆に僕が尋ねられてしまった。
「アランティや。この三日間連絡もせずに、どこに行っておったのじゃ?」
(三日間だって!気絶してたのは、精々一時間前後の筈だ…)
僕は正直に、今日起こった出来事を一つづつ説明した。
「…だから魔法の発現はしたのに、司祭は精霊の祝福を認めないばかりか、異端審問官っていう黒ローブの男たちに、真っ暗な牢屋に監禁されてたんだ」
そこまで話したところで、お爺さんが説明してくれた。
「お前が大聖堂に出掛けたのは三日前の午前中じゃ。お昼ごろにはいつものお友達二人が、司教の間から何時まで経っても出てこないと知らせに来てくれたのじゃ。聖会にも問い合わせたところ、別の出口から家に帰ったと言われ不審に思ったそうじゃ」
お爺さんは一息入れて、続けて話してくれた。
「帰ってきたら知らせに行かせると言って、二人には自宅に帰って貰ったが、それから毎日尋ねに来てくれているのじゃ。しかし…」
途端にお爺さんは、表情を固く引き締めながら、声を一段と潜めて話を続けた。
「その後一昨日に、警備兵の詰め所まで失踪届を提出して来たが、昨日には黒ローブの男たち…あれは異端審問官の様だったが、家中を家探しして行きおった。きっと家に居ては危ない。直ぐに王都を出なさい」
お爺さんは真剣な目で、僕の無事が一番大事だと何度も訴えた。
「そんな事言ってもお爺さんを一人置いて、王都を出るなんて出来る訳ないじゃないか。僕はお爺さんと一緒に居るよ。王都を出るなら二人でだよ」
僕は涙ながらに、お爺さんに訴えた。
いつの間にか僕の足元には、灰色の猫が不安気な様子で擦り寄っていた。
(そうだ、お前も一緒にな)
ニャーァ、ニャーァ、ニャーァ。
まるで僕の言葉が分ってるかのように、鳴き声を上げていた。
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