第2話
ぱらぱらぱら、けろけろけろ、とんとんとん。
環境音を脳内で文字に置き換えてみた。一つ目は雨粒が傘にぶつかる音。二つ目はカエルの歌声。三つ目は自分の足音。小学生で習ったオノマトペの一部だが、だれがいつ、音を言語化しようと思ったのだろう。再現しなければ殺される場面でもあったのだろうか。ただの思いつきだろうか。後者だったら平和でいいな。
水たまりを踏み、アスファルトを蹴り、大通りに出た。スイーツや服が並ぶ、目にも耳にも情報量が多い道だ。私は明るい色が苦手だ。その色で日光が反射して眩しいから。今日は太陽が出てないから、店の外装や看板がよく見える。こんな色をしていたのだと、初めてわかった。そもそも、大通りにあまり出ないし、まともに看板などを見ようとしたこともなかった。知るわけがない。食料品を買うときは、真反対のスーパーに行くし...。言い訳を考えながらぼーっと突っ立っていたら、迷惑そうな眼差しを女子高生とその連れの男子高校生からもらってしまった。仕方なく、その場から去ることにした。
病院は駅から徒歩数分の場所とのこと。ネットで調べたとき、かなり良い場所にあるなという印象があった。アクセスが良いの、とても便利だ。私は徒歩で行けるから関係ないけれど。ひと駅分歩くのだが、そう言っても、10分で済むことなのだ。都会ならではの便利さが伺える。疲れているときは10分すら長く感じてしまうものだが、今日はそれほど退屈だと感じていない。久しぶりにお出かけをしに外に出たからだろう、心が踊っている。
右手に見えるのはコンビニ、道路をまたいで左手に見えるは古服屋さん。この古服屋さんは、本当に値段が優しくてお気に入り。古着の割にはきれいなのも良いポイント。誕生日にはここで服を何着か買って一人ファッションショーをした。その服は今は引き出しの二段目の左側に幽閉している。これから着る機会があればいいな。
一駅目。私の家の最寄り駅。家電やアニメグッズなどがならんでいる。私には縁のない場所。仕事ばっかで時間を割いていられなかった。でも、ちょっと羨ましい。家電にこだわって家族との料理を楽しむのも良い。友人と好きなアニメについて語るのも良い。でも私にはその2つもない。家族は苦手だし、友人はお察しの通り。一人で楽しむのも良いかと思ったが、そもそもやる気がない。ぼんやり仕事にしがみついて従っている今が、なんだかんだ一番幸せなのかもしれない。楽しいことのない人生は貧しいだろうか...。きっとそんなことは無いはずって、信じてる。
もったいないが、そこをすべて無視して病院へ向かう。かまっていられる時間はもう無いのだ。寂しいことだ。ちゃんと治せたなら、また向き合ってみるのも良いかもしれない。
...。妄想にも、もう飽きた。ちゃんと病院に向かおう。肩掛けバッグを持ちなおし、傘を少し上に持ち上げた。もう少し、もう少し。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます